『-one-』

零れた想い P56


 入り口に立っていた麻衣は誠と言葉を交わしている。

 麻衣…どうして?

「陸さん、ご指名です」

 すぐに声が掛けられた。

 もちろん麻衣に決まっている。

 麻衣は一番奥のテーブルへと案内された。

 一体何をしに…手紙だけじゃなくて面と向って別れを言うつもり?

 陸は動揺して立ち上がる事も出来なかった。

「陸さん…何してるんですか」

 悠斗が陸に声を掛けるが声が届いてないようにぼーっとしている。

「陸さん、陸さん…」

 悠斗が小声で何度か呼びかける。

「あ、あぁ…」

 悠斗の声にようやく反応した陸が悠斗の顔を見る。

 ひどく狼狽の色を見せている。

「早く行ってあげて下さい」

 悠斗に促されても体が動かなかった。

 まるで金縛りにあったように指1本動かす事が出来ない。

「でも…」

 固まった喉からかろうじて言葉を絞り出せた。

 立ち上がらない陸を悠斗は乱暴に腕を掴んで無理矢理立たせた。

「陸さんっ!」

 悠斗に名前を呼ばれた陸は顔も上げずになぜかスタッフルームの方へと歩き始めた。

 悠斗が慌てて陸を追いかける。

「陸さん!何してるんですか」

「俺…無理だ。悠斗、お前代わってくれないか」

 あんなに会いたかったのにいざ麻衣の姿を目にしたら急に怖くなった。

 麻衣の口から決定的な言葉を聞かされたらもう終わりなのに…。

「おい、お前ら何してるんだ」

 誠が二人の所へ来て声を掛けた。

「誠さん、俺…」

「お客様が席でお待ちだ。早く行け」

 誠は陸の言葉を最後まで聞かずに厳しい顔で言った。 


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