『-one-』
零れた想い P54
俺は何を言ってるんだろう。
時間を貰っても奈津美ちゃんの望む答えを出してあげられるか分からないのにどうして期待を持たせてるんだろう。
俺が奈津美ちゃんを手放したくないだけ?
まさか情が移ったかな。
嫌いじゃないし自分が夢中にならない方が付き合ってても苦しくないかもな。
何…考えてんだ俺。
そんな事を考えた自分に吐き気がした。
俺っていつからそんな嫌な男になったんだ?
「陸くん…私期待していいのかな?」
奈津美に訴えかけるような視線が痛い。
「いや…あ…」
泣き出しそうな奈津美の顔が麻衣の泣き顔とだぶった。
麻衣と終わったんなら奈津美ちゃんと付き合っても…。
「奈津美ちゃん」
陸が名前を呼ぶと期待したような視線が返って来る。
いや…違う。
こんなの違う…。
「電話するから」
「うん。待ってるね」
奈津美は落胆した表情を浮かべながら頷いて仕事へ行った。
俺には麻衣が…
でも俺と麻衣はもう…
置き去りにされた指輪と手紙が脳裏に浮かんだ。
何も言葉も交わさずに?
あの手紙一枚で俺たちは終わってしまったのかもな。
その証拠にあれから麻衣からの電話もメールも一度もない、俺からは勇気が出なくて出来ないけど…。
自業自得…だな。
俺は麻衣の所へ行かないという意味が分かっていたんだから。
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