『-one-』
零れた想い P53
陸の言葉に奈津美は嬉しそうに目を輝かせた。
「じゃあ、彼女と別れて私と…」
陸は奈津美の肩に手を置いたまま静かに首を横に振った。
「好きだよ。俺の客の女の子はみんな好きだよ。一緒に居る時はその子が一番好きだよ」
「えっ…」
「そういう事だよ。ホストの陸として奈津美ちゃんの事が好きだよ。」
驚いた顔をしている奈津美ちゃんには悪いけどそれが事実。
表情を変えずに淡々と話をする陸を奈津美が辛そうな表情で見ている。
「私は…そういう意味じゃなくて!」
奈津美は陸の上着を掴んで縋るように陸の顔を見上げた。
「分かってるよ。奈津美ちゃんの気持ちはちゃんと伝わってる…でも簡単じゃないんだ」
奈津美の真剣な眼差しで心を動かされてしまいそうで思わず目を逸らした。
一瞬…受け入れてもいいかなと思ってしまった。
こんなに必死に自分に思いを告げてくれる女の子となら幸せになれるような気がする。
可愛いし、いい子だし。
でも…ドキドキしないんだよな。
麻衣と初めて待ち合わせした日の胸のドキドキは今でもはっきり思い出せるのに…。
「もう時間だから行かないと、奈津美ちゃんも仕事頑張って」
「陸くん…私本当に好きなの、陸くんが…」
「ありがと、じゃあまたね」
陸はその場から立ち去ろうとしたけれど奈津美が腕を掴んで引き止めた。
「返事聞かせて?このままじゃ私…」
「簡単じゃないって言っただろ?奈津美ちゃんだってこういう仕事してればそういうの分かるだろ?」
陸はしつこくする奈津美に苛立ちを感じた。
「だって…今だって彼女いるんでしょ?上手くいってないなら、その子と別れて私と付き合って!」
そんな簡単じゃないんだよ。
「急だったから…少し時間をくれないか?」
咄嗟に口から言葉が出てしまった。
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