『-one-』
零れた想い P52
お互いに夜の仕事なので今日は同伴じゃなくて仕事前に一緒に食事をしているだけ。
俺は客としてと言うより友達というか仲間に近い感覚で奈津美ちゃんに接している。
でも奈津美ちゃんは…俺に恋愛感情を持っている。
そうさせてしまったのは俺のせいだ。
ホストと客は擬似恋愛…それを分かって皆楽しんでいる。
でも奈津美ちゃんとはホストと客として出会ったわけではなく、たまたま同級生で何となく境遇が似てて…自分が辛い時に側に居て…。
「そろそろ行く?」
奈津美ちゃんに声を掛けられて皿の上に目をやった。
二人共ほとんど皿の上に料理が残っていてこれじゃあ何のために頼んだか分からない。
「もう食べないの?」
「こんなに食べたら太っちゃう!」
それなら最初から頼むなよ、食べれる量だけ頼むのが基本だろ。
作ってる人の気持ちも…って俺がいつも麻衣に言われてたんだっけ。
外食の時は野菜の物を一品頼むとか、料理を作った人はおいしいって言葉より空になったお皿が嬉しいとか…。
お腹いっぱいって言いながら最後の一口までキレイに食べるんだよな。
「陸くん?」
「ん?…じゃあ行こうか」
陸は奈津美と店を出て暫く一緒に歩いていると、突然奈津美が立ち止まった。
「奈津美ちゃん?」
「陸くん…私、陸くんが好きなの。彼女がいるのは知ってる…でも、どうしても諦められなくて」
奈津美は振り返った陸に抱き着いて告白をした。
「ありがとう」
陸は奈津美の体を無理に離そうとはせずに肩に手を置いて答えた。
「彼女と…上手く行ってないでしょ?」
「あはは…奈津美ちゃんにはバレバレだな。気を使わせた?ごめんな」
客にそんな事気付かれるなんてホスト失格だな、こんなんじゃ誠さんにまた怒鳴られるなぁ。
「私の事…嫌い?」
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ、…好き?」
「好きだよ」
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