『-one-』

零れた想い P48


「おはよ」

 竜が入って来た。

 美紀の横に座って頬にキスをする。

 田口家では当たり前の光景。

「懐かしい話してたなぁ?」

「聞いてたの?」

 どうやら廊下で二人の話をずっと聞いていたらしい、もちろんあのノロケ話も聞いてたようでかなりのご機嫌だ。

「美紀が答えられなかった事、俺が答えてやるよ」

 竜は美紀の淹れたコーヒーを飲みながら麻衣の顔を見てニヤリと笑った。

「物分りが良い女は可愛くないって事だよ。」

「か、可愛くないって…」

 お父ちゃんの突拍子も無い答えに私は真面目に聞くんじゃなかったと後悔した。

「物分りが良すぎると冷めてるんじゃなかって感じる事もあるからな」

「でもお父ちゃんホストだったし、他の女の子と一緒に居る事にヤキモチ妬かれたって困ったでしょ?」

「別に困らねぇって。」

 えっ?

 麻衣は驚きを隠せない。

「ヤキモチ妬くって事は俺以外の男に目が行ってない証拠だし、俺を独占したいって気持ちの表れだろ?」

 お父ちゃんの言ってる事は分かるけど…でもそんな風に思えるものなのかな。

 納得のいってない麻衣の表情を見た竜は少し考えながら口を開いた。

「現役のホストが一人の女と真剣に付き合うってそんな簡単じゃないだろ」

「うーん…そうかな?」

「他の奴は知らないけど俺はそうだったね」

 陸も…そう思いながら私と付き合ってたのかな。

「少なくとも俺にはそれなりの覚悟と強さみたいなものが必要だったな」

「覚悟と強さ…?」

 竜は麻衣の顔を見てゆっくりと頷いた。

「美紀の寂しく悲しい気持ちを全部受け止める覚悟、美紀が不安になって離れようとしても引き戻す強い気持ち」

 受け止める覚悟と引き戻す強い気持ち。

 美紀は今の話を聞いて嬉しそうに竜に寄り添っている。

 あぁ…お母ちゃんは本当にお父ちゃんに愛されて愛されてここまで来たんだ…。 


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