『-one-』

零れた想い P40


 麻衣は約束の15時より30分も前から時計の前に立っていた。

 ちゃんと伝わってるよね?

 こんなやり方回りくどかったかもしれないけど、あの日陸がここで待っててくれたから始められたの。

 だから今度は私が陸を待っていたいなって。

 薬指にはめた指輪にそっと触れた。

 この指輪と一緒に陸は誓ってくれた。

 こんなに簡単に壊れてしまうわけがないと信じている。

 陸が来たら真っ先に大好きって言おう。

 それでマンションに帰ったら陸の大好きな物作って一緒にご飯食べよう。
 
 時計が時を告げる鐘を鳴らした。

 約束の時間が来たけれどまだ陸の姿は見えなかった。

 でも胸をドキドキさせながら待っている時間さえも今は楽しみにさえ感じていた。

 10分、20分、30分…そして1時間。

「きっと来る…」

 麻衣の気持ちとはうらはらに時間はどんどん過ぎていく。

 それでも麻衣は必ず来ると信じて待つ事に決めた。

 何回時を告げる鐘の音を聞いたのか分からなくなった。

 辺りはすっかり暗くなって明るかった駅前もすっかり夜景に変わっていた。

「陸…」

 何度目かの鐘が鳴って麻衣は時計を見た。

 21時…バカみたいに6時間もここに立っていた。

「これが陸の答えだったのかな…」

 麻衣は棒のように固まってしまった足を引きずるように歩き出した。

 すごく痛いはずなのに心の痛みでそれすらも分からなくなっていた。


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