『-one-』

零れた想い P38


 まずいな…。

 もう約束の時間過ぎちゃってるよ。

「ごめん…ちょっと電話してくるよ」

 立ち上がった陸に奈津美はしがみついた。

「一人にしないで!お願いっ!!」

「すぐ戻ってくるからさ…」

「お願い…ッ」

 縋りつかれて陸は諦めて腰を下ろした。

 俺…何やってんだろう。

 これがやり直すチャンスだったのは間違いなかったのに。

 そんな大切なチャンスを俺は棒に振った…。

 何を置いても麻衣の元へ駆けつけないといけなかったはずなのに…。

 泣きつかれたのか眠っている奈津美を見た。

 でも一人にしておけなかった。

 生活のために水商売という仕事を選んで頑張って働く彼女を見ているとまるで自分とダブるんだ。

 それに…自分が辛い時でも何も聞かずに店に足を運んで笑いかけてくれた。

 麻衣…行けなくてごめん。

 ごめん…ごめん…

「陸くん…何か予定でもあったの?」

 奈津美が目を覚まして陸に話しかけた。

「いや…いいんだ。もう帰ってると思うし…それより気分はどう?」

「ありがとう。陸くんが居てくれたおかげで落ち着いてきた」

 ようやく笑顔を見せてくれた奈津美の部屋を出た。

 もうすぐ21時になろうとしていた。

 携帯を取り出して麻衣に電話を掛けようとしてボタンから指を離した。

 今さらなんて言えばいい?

 約束の時間に行かなかった事を選んだのは俺なのに。

 もう待ってるわけもないのに…。

 それでも…もう一度麻衣と話がしたいよ。

 電話なんかじゃなくて…ちゃんと顔を見て触れて話がしたい。

 陸の足は待ち合わせの場所へと向った。


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