『-one-』

零れた想い P36


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「陸くんっ!」

 奈津美は陸が現れると抱きついて泣き崩れた。

「奈津美ちゃん!?」

 理由は分からないがひどく泣いている奈津美の体を支えながら顔を覗きこんだ。

「泣いてちゃわからないよ。何があったの?」

 いくら聞いてもしゃくりあげるばかりでまったく要領を得ない。

 それどころか人通りの多いこの場所では女の子が大泣きしていては通行人の注目は避けられない。

 これじゃあ…俺が泣かしてるみたいだな。

「奈津美ちゃん、とりあえず移動しよう?」

 奈津美を支えるように歩いてすぐにタクシーを捕まえる。

 移動っていってもどこへ行けばいいんだ。

「私…家に帰りたい…」

 陸が行き先に悩んでいると奈津美が陸の服を引っ張りながら呟いた。

「あぁ…そっか。その方がいいよね」

 タクシーを停めて乗り込むと奈津美が自宅の場所を説明するのを見て陸はホッと息を吐いた。

 これで家まで送り届けて戻れば間に合うよな。

 やっぱり花買って行こう。

 それで恥ずかしそうに俯く麻衣を抱きしめよう。

 これからの事を考えると自然と頬が緩むのを感じた。

「陸くん…少しの間こうしててもいいかな?」

 奈津美が腕にしがみつくように寄り添ってきた。

「いいよ」

 陸は笑顔で返した。

 陸の頭の中は麻衣の笑顔で埋め尽くされていた。


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