『-one-』

零れた想い P33


 古い折りたたみ携帯には小さな紙が二つ折りになって挟まれていた。

 麻衣…?

 “使わないけど記念だから取っておくの!”と嬉しそうに麻衣が笑った顔を思い出した。

 この携帯を何でわざわざ?

 携帯を開いて何気なく電源ボタンを押してみると画面が明るくなった。

「バカだなぁ…充電してんのかよ…」

 電源が入って画面に自分の顔が映し出されると思わず笑いが零れる。

 挟んであった小さな紙を開く。

【明日15時にK駅南口時計の前で待ってます 麻衣】

 綺麗な文字で丁寧に書かれていた。

 二人が始まった携帯。

 俺がホストじゃなくて一人の男として会いに行ったあの場所。


 俺と同じ気持ちでいてくれた。

 もう一度俺と始めようとしてくれているんだね。

 麻衣の気持ち受取ったよ。

「麻衣…ありがと」

 陸は手の中の携帯を愛しそうに見つめた。

 携帯を額に押し当てた後陸はソッと唇を押し当てると静かに笑った。

 その笑顔は久しぶりに見せる陸の柔らかな表情だった。

「あっれー?陸くーん?」

 奈津美が手を振って近付いてきた。

「あ、奈津美ちゃん。いらっしゃい」

「もしかしてお出迎え?」

「ははは。奈津美ちゃんが来る様な気したんだ」

 陸は笑いながら手に持っていた携帯をポケットにしまった。

「あれぇ?なんかすっごいご機嫌?」

「そぉ?いつもと同じだよ。はい、どうぞ?」

 陸は込み上げる喜びを抑えきれずに笑顔でドアを開けながら奈津美をエスコートした。

 そんな陸を見た奈津美の表情が曇ったがすぐにいつもの表情に戻って陸に笑顔を向けた。


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