『-one-』

零れた想い P32


 麻衣はどういうつもりだったんだろう。

 俺に答えを求めるような言葉も素振りも見せなかった。

 もう俺の事は麻衣の中で整理がついてしまった?

 心の中で不安が募る。

 俺が離れたいって言ったくせにすげぇ勝手な事ばっか考えてるよな。

 このままじゃダメだよな…。

「ごめん、ちょっと待ってて?」

 次の指名客のテーブルについていた陸は立ち上がって店を飛び出した。

 送り出しも出来なかったけどまだそんな遠くには行ってないよな?

 店の外に出て辺りを見渡すが麻衣の姿は見当たらない。

「くそっ…俺何やってんだよ!」

 バカだな俺…。

 こんな気持ちになるくらいなら最初からあんな事言わなきゃ良かったんだ。

 でも…俺分かんないよ。

 今日、麻衣が俺の前で寂しいとか会いたかったとか店の中でなりふり構わず俺を責めたとしても…。

 俺は間違いなく麻衣をあの場で抱きしめていたと思う。

 でも…麻衣の気持ちが分かんないよ。

 俺と一緒じゃなかったの?

 こんなホストとは将来の事は考えられない?

 年下じゃ不安?

「すいません、陸さん」

 店の中から声を掛けられてハッと我に返った。

「あ、今戻るから」

 またここで仕事放り出したら麻衣の事だから怒りそうだしな。

「あ…いやそうじゃないんですけど」

 振り返って店に戻ろうとした陸にボーイが言いにくそうに声を掛けた。

「さっきの…麻衣さんの忘れ物みたいなんですけど…」

 忘れ物?

 相変わらずそそっかしいんだな。

 変わらない麻衣の行動に沈んでいた気持ちが少し温かくなるのを感じた。

「俺、預かって…」

 言いかけて差し出した手を途中で止めた。

 預かって俺から麻衣に返せるのかな…。

 悩んでいだ俺の手の中に置かれたのは古い折り畳みの携帯だった。

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