『-one-』

零れた想い P30


 あと少しで陸に会える。

 席に案内されるまで怖くて顔を上げる事すら出来なかったけど、きっと陸は私の事見つけてるよね。

 陸と離れたまま過ごした1ヶ月、最初のうちは毎晩泣いてばかりだった。

 でも、ようやく気が付いた。

 いつも陸が追いかけてくれた。

 陸が居てくれたからここまでやって来れたんだって分かった。


 だから今度は私から陸に歩み寄らないと…。


 席に案内されてからの数分の時間がまるで永遠のように長く感じた。

 周りの賑やかな声さえもどこか遠くの出来事のようにぼんやりとしか聞こえてこない。

「お待たせしました」

 きっとどこに居てもこの声だけは聞き逃さないと思う。

 あんなに毎日聞いていた声。

 陸の声だけが麻衣の耳に飛び込んでくる。

「いらっしゃい」

 陸が麻衣の隣りに座った。

 声、少し緊張して聞こえるね。

 麻衣は視界の端で陸が座ったのを確認すると恐る恐る顔を上げた。

「こんばんは」

 震える手をギュッと押さえながら笑いかけた。

 二人の視線がぎこちなく絡み合う。

 あ…陸、髪伸びたね?

 それに…痩せたのかな?

 久しぶりの陸の顔に涙が込み上げそうになって必死に堪えた。

 今、泣いちゃったら陸に迷惑かけちゃう…。

 今日は絶対に泣かないって決めて来たんだから。

「元気、だった?」

 陸の声はいつもよりも硬くてこんなに近くにいるのにすごく遠くに感じる。

「うん…陸は?」

「俺も元気だよ…」

 会話が続かない。

 何を話していいのかただの世間話すら思い浮かばなかった。


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