『-one-』
零れた想い P26
あの日から一週間。
部屋に帰って来ない陸を心配した麻衣はONEを訪れていた。
しかし久し振りに顔を合わせた二人はなかなか言葉を交わせずにいた。
二人の様子を誠や悠斗、他のホスト達が心配そうに見守っている。
「今、どこにいるの?」
「誠さんの所」
麻衣に会わない間もいつものように仕事をしていた。
女の子と話して酒を飲み甘い言葉を囁いて…。
普段はしないキャッチまでもして仕事に没頭しようとしていた陸が押し潰されなかったのは皮肉にも奈津美が側にいたからだった。
毎日のように店に来ては他愛のない話をして笑顔を向けてくれる奈津美に救われていた。
その間だけでも辛い事を考えなくても済んだの救いだった。
帰りたいの帰りたくないのか自分でも分からなかった。
久しぶりに麻衣の顔を見て嬉しいのと同時にこの前の麻衣の言葉や態度が頭をよぎる。
陸の顔が苦しそうに歪んだ。
「しばらく離れて考えたいんだ…」
それは何の脈絡もなく唐突に陸の口から出た言葉だった。
他にもお客さんがいる店の中で小さな声だったがはっきりとそう麻衣に告げた。
「そ、それは別れたいって事?」
麻衣の口から絞り出すような声が聞こえた。
「…分からない」
自分でもどうしたいのか分からなかった。
本当にどうしたいのか分からなくて、一緒に居たらもっと傷つけてしまうのが怖くて…。
だから…俺は簡単にこんな言葉を言ってしまったんだ。
そのまま二人は押し黙ったままボーイが陸の指名を告げに来るまで続いた。
「ごめん」
陸はテーブルを離れる時に一言だけ言った。
麻衣は座っていなければ倒れていたかもしれない。
足元から崩れそうになる感覚が体を襲った。
帰る時でさえ悠斗に体を支えて貰わないと一人では歩けない程だった。
麻衣を見送って店に戻った悠斗は陸を呼び出した。
「何があったか知らないですけど、あんなになるまで好きな女傷つけるなんて男として最低ですよ。」
陸は何も言い返せずに黙っていた。
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