『-one-』

零れた想い P23


 麻衣は陸の言葉に深く傷ついていた。

 私じゃ陸の力になれないんだ。

 同業にしか分からない悩み…

 OLには到底理解するのは難しい世界。

 それでも小さい頃から父を見てきているし自分なりに理解しているつもりだった。

「だから…今日はその埋め合わせしてあげるから一緒にいよ?」

「埋め合わせ…?」

 埋め合わせしてあげる?

 麻衣はその言葉に敏感に反応した。

「やきもち妬いたんでしょ?今夜はずっと麻衣の側にいるからさ」

 何それ…。

 埋め合わせをすれば済むと思ってる?

 それじゃあ、私がこの前の埋め合わせねって陸と二人で食事でもすれば気が済むの?

 麻衣は自分を抱きしめようとする腕から逃げるように体を離した。

「麻衣?」

「何…そうやってご機嫌取ろうとしてるわけ?」

「ご機嫌って…」

 陸は困ったような表情を浮かべた。

「なぁ…一体どうしたんだよ」

 陸は訳が分からずに麻衣の顔を覗きこんだ。

「ホストさんにはOLの気持ちは分からないかもね」

 心の奥のどろどろとした物がぶくぶくと急速に膨らみ始めた。

「なっ…何だよそれ!だいたい話すり替えたのはそっちだろ?何で麻衣が怒ってんだよ!」

「分からないならいい!」

 自分はあんなに怒っておいて私が怒ったらそうなるの?

「この前の事なら今日はずっと一緒にいるって言ってるだろ?」

 だからそんな事をしてほしいわけじゃないのに。

 どうして分からないの?

「仕事は休むくせにその子の為ならオフでもワザワザ悩みは聞きに行くくせに…」

「だから俺の客だし、やっぱり同業にしか言えない悩みもあるだろ?」

 陸は麻衣の誤解を解こうとしたかっただけだった。

 だからその言葉が麻衣にとってどれほどショックを受ける言葉なのかはとても想像がつかなかった。

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