『-one-』

零れた想い P22


 窓がまだカタカタと震えている。

 激しい陸の怒りに触れた麻衣の体も恐怖で震えていた。

「そ、そんなつもりは…」

「俺にバレなかったら黙ってるつもりだったんだろ!」

 陸の言うとおりだった。こんな風にバレなかったらずっと黙ってるつもりだった…。

 想像以上の陸の怒り…。だけど本当に食事しただけなのに、そんな風に頭ごなしに怒らなくてもいいじゃないかな…。

「言い訳もないのか?」

 言い訳?

 確かに陸に黙って出掛けたのは悪かったとは思うけど…。

 麻衣は顔を上げて涙目で陸の顔を睨みつけた。

「言い訳?そうやって怒るから言えなかったんでしょ?」

「ハァ?俺に黙ってまで他の男と飯食いに行きたいのかよっ!」

 どうして…どうして…俺だけじゃダメなんだよ…。

「男が女と二人で飯食うなんて下心があるに決まってんだろ?なんでそんな事も分かんないだよ」

 陸はイライラと自分の髪を掴むとため息を吐きながら俯いた。

「じゃあ陸も下心があったんだ」

「はぁ?」

 陸は眉間に皺を寄せて顔を上げると睨みつける麻衣と目が合った。

「一晩中女の子と二人で居たのは下心があったからでしょ!」

 どうして…そうなるんだよ。

 麻衣にとっては俺もアイツも…ホストならみんな一緒なのか?

 陸は逆に怒りをぶつけられてようやく我に返った。

「あれは仕事で嫌な事があったからって落ち込んでて…同じ客商売だし愚痴に付き合って励ましただけだよ」

「同じ…客商売?」

「あぁ、キャバ嬢なんだ」

「だから?どうしても行かなくちゃいけなかったの?」

 麻衣の目尻に涙が溜まっている。

「オフの日に夜空けた事は謝るよ。ほら…仕事だったんだし…」

「仕事?仕事?じゃあどうして今ここにいるのッ!」

 麻衣がドンドンと大きな音を立てて足を踏み鳴らした。

 どうしてそんなに怒ってるの?

 目の前にいる麻衣の瞳から涙が雫になって頬を伝った。。
 
 陸は冷静になってようやく言いすぎたと反省した。

 こんな風に喧嘩をする為に一緒に帰って来たわけじゃないのに…。

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