『-one-』

ホストの素顔 P9


 静かな時間が流れた。

 二人とも黙ったままの車内は重苦しい雰囲気に包まれている。

 ゆっくりと陸は顔を上げて麻衣の顔を見た。

「俺、麻衣が好き」

 初めて見る真剣な表情。

 声が出なかった。

 陸の真っ直ぐな瞳に金縛りを掛けられてしまったみたいに体も動かせない。

「…好きなんだ」

 陸がもう一度言った。

「き、昨日会ったばかりじゃない」

 麻衣の口からようやく言葉が出た。

 昨日から止まらないアトラクションにでも乗せられた気分だった。

 次から次へと色々な事が起こって心が着いて行かない。

 この先何が起こるのかも検討がつかなかった。

「好きになるのに時間がいる?」

 陸は逸らす事なく真っ直ぐ目を見て話す。

 でも真っ直ぐ目を見て話したから全部本心だと思ったら大間違いな事を麻衣は経験している。

(騙されない…)

「時間なんて関係ないよ?麻衣に出会ってこんなに胸がドキドキしてる!」

 陸は麻衣の手を取って自分の胸に押し当てた。

 手の平から鼓動が伝わってくる。

「ほら!麻衣が隣にいるだけでこんなにドキドキしてる」

 その速さは確かに走った後のように早く打っている。

 そして麻衣自身も同じ速さで動いている事に気が付いた。

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