『-one-』

ホストの素顔 P8


 二人とも黙々と食べて先に食べ終わった陸は麻衣が食べ終わるまで海を眺めていた。

 食べ終わるとさっさと立ち上がって歩いて行く。

「えっ…」

 慌てて追い掛けると陸は支払いを済ませていた。

「待ってよ!なんでお金払ってるの…それは私がって…」

 足早に店を出て行く陸を追い掛ける。

 何度呼んでも振り向きもしない。

(何?怒ってるわけ?)

 ようやく車の前で追いついた。

「さっきから何なのよっ!」

 叫ぶように言った麻衣に陸が一瞬だけ振り返った。

 麻衣はその顔を見て驚いた。

 てっきり怒った顔をしているとばかり思っていたのに辛そうに顔を歪めている。

 陸が運転席に乗り込むのを見て麻衣も慌てて乗り込んだ。

「ねぇ…何とか言いなさいよ。ちょっと聞いてるの?」

 何も言わない陸に詰め寄った。

 ギュッ−

 陸の腕が麻衣の体を抱きしめる。

 運転席の方に引き寄せるような格好で腕の中に包み込むと更に腕に力を入れた。

「ちょ…く、苦しい…」

 あまりに強く抱きしめられていて息が苦しい。

 麻衣は抱きしめている陸の腕を握って離そうとした。

 腕の力がフッと抜けて体が離れると麻衣はホッと息を吐いた。

「んんっ…」

 だが今度は麻衣の二の腕を掴んで引き寄せると唇を重ねられた。

 まるで噛み付かれているような激しいキスで入り込んで来た陸の舌が暴れ回る。

「んむっ…んんっ…」

 逃げ出そうと体を捩ると今度は頭の後ろに手を当てて引き寄せられる。

 がっちりと抱えられて身動きが取れなくなった。

「やっ…んんっ…」

 顔の角度を変えながら何度も何度も舌を強く吸われる。

 あまりの激しさに意識がぼんやりした。

「んっ…ハァッ…」

 ようやく離れた唇には透明な糸が伝う。

 麻衣の瞳にはみるみる涙が溜まり始めた。

「どうしてこんな事するの!?」

 麻衣が手の甲で唇を拭っていると両頬に涙が伝った。

 ジッと麻衣の顔を見ていた陸はハンドルに手を置いて突っ伏したまま動かなくなった。

「何とか言いなさいよぉっ!」

 キスなんて初めてじゃなかったけれどこんな風に乱暴にされた事が悔しくて大きな声で叫んだ。


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