『-one-』

零れた想い P21


「仕事は遊びじゃないでしょ?嫌だから行かないなんて言い訳が通用すると思ってるの?」

 麻衣の言っている言葉の意味が全く分からなかった。

 俺がいつ仕事が嫌だって言った?サボリたいって言った?

「俺達みたいな職業の大変さはOLさんには分からないかもね」

 陸はボンヤリと宙を見つめていた。

「そんな事ない。ちゃんと分かってるよ?」

「あぁ…俺以外のホストとも仲良くしてるから?」

 陸は麻衣から離れて立ち上がると窓際に立った。

「どういう意味?…陸以外のホストの人なんて私は…」

 麻衣の言葉を聞いて陸はカーッと頭に血が昇った。

「嘘つけ!この前またあの男と会ったんだろ?」

 陸の言葉に麻衣は驚いたように顔を上げると目を見開いた。

 俺にバレてないとでも思ってたのかよ。

 麻衣のその態度を見て頭の中がグルグルと回り始めた。

「偶然とか言いながら本当は何度も会ってんだろ!」

 陸は大きな声で麻衣を怒鳴りつけた。

 グチャグチャの頭の中にあるのは麻衣が他の男と歩いていた所、他の男に笑いかけていた所…。

「違うの!本当に偶然会って…それでお礼にって一緒に食事しただけなの…」

 俺が言ってるのはそういう事じゃないだろっ!

 なんで分からないんだよ。

 陸は麻衣を一瞥すると窓の外に視線を向けた。

 麻衣は慌てて立ち上がると陸の腕に触れようと手を伸ばした。


 パシンッ−


 陸はその手を思いっきり払った。

 触るなとはっきりと拒絶された麻衣は驚いたように顔を上げた。

 行き場の失った手をだらりと下ろしてスカートを握り締めた。

「本当に食事しただけなの…」

 弱々しい声で麻衣が訴えた。

「俺に内緒で?」
 
 冷たい声が返ってきて麻衣は開きかけた口を閉じた。 

「見合いした男とワザワザ二人きりでいた、そういうの俺が嫌がるの知ってんだろ?それを見た俺の気持ちは?」

 間違った事言ってる?

「でも…本当に食事しただけで…」

「食事だけなら俺に隠れて男と二人きりで会ってもいいって思ってんのかよ!」

 バァァァッッン!!!

「ヒッ!!」

 同じ言葉を繰り返す麻衣に怒りが爆発した陸が窓ガラスに拳を叩きつけた。


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