『-one-』
零れた想い P20
部屋に帰ると陸は麻衣の肩を抱きながらソファに寄り添うようにして座った。
相変わらず麻衣の表情は固いままだ。
「麻衣?怒ってるの?」
「当たり前でしょ。仕事休んだりして…陸に会うのを楽しみにしてる子に悪いと思わないの?」
麻衣は肩に置かれた陸の手を下ろしながら感情のこもってない声で答えた。
何だよそれ…。
頭の中でプチッと何かが切れた。
「へぇ…そんな風に思ってんだ。じゃあ麻衣は俺が今一緒に居る事は嬉しくないの?」
「そういう事を言ってるんじゃなくって…」
陸のイライラした様子を見た麻衣は呆れたような口調になった。
「だってそうでしょ?俺は麻衣と一緒に居たいと思ってるのに、麻衣は俺に女の子の相手をして欲しいんだろ?」
「そんな事言ってないっ!」
「俺は今日は麻衣と一緒にいるって決めたの!」
二人の心の中にあるわだかまりが邪魔して話は思いがけない方向へと進んでいく。
「子供じゃないんだからっ!仕事に行きなさいよ!」
仕事、仕事、仕事…。
どうしてそういう事ばかり言うんだよ…。
「そうやって無断で休むから誠さんに怒られるんじゃない」
麻衣が畳み掛けるように言葉を続けた。
「今からでも遅くないから仕事に行って」
「麻衣は俺と一緒に居たくないの?」
陸の訴えかけるような声に麻衣は険しい表情をした。
「いい加減にしてよっ!仕事休みたいからって私の名前を使わないでっ」
一度吐き出してしまった言葉はもう元には戻せない。
そしてその言葉は鋭い刃となって相手の心に斬りつける。
「どういう意味だよッ」
「オフにちゃんと休んでれば今だってここにいる必要なかったんじゃない?」
昨日の事を言ってるの?
後ろめたさから陸は動揺して麻衣から視線を逸らした。
「き、昨日の事なら俺の客が…」
「オフの日でも呼び出しがあれば出かけるくらいお客さんが大事なんでしょ?」
違う…違う…そうじゃない。
「サボリたい時だけ私のせいにしないで!」
「サボる?俺が…?」
麻衣…?何言ってんだよ…。
俺はただお前と一緒に居たいだけなのに…。
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