『-one-』

零れた想い P19


 奈津美が曲がって姿が見えなくなるまで見送ると、陸は体の向きを変えて歩き始めた。

「えっ…」

 数歩歩いて声を上げて立ち止まった。

 数メートル先にこっちを見ている麻衣が立っていた。

 い、いつからそこに…陸の動悸が激しくなる。

 麻衣は陸と目が合うと慌てて向きを変えて歩き始めた。

 陸は急いで駆け寄ると腕を掴んで引き止めた。

「ま、麻衣っ!」

「昨夜帰って来なかったから心配で…でも元気そうだし安心した」

 背中を向けたまま話す麻衣を見て今のやり取りを聞いていたんだと確信した。

「し、心配かけて…ごめん」

「ううん…顔見れたし帰るね」

「店、入らないの?」

「今日は遠慮しとくね」

 麻衣は後ろを向いたままだ。

 嫌な感じがして頭の中で警鐘が鳴り響く。

「ねぇ、こっち向いて?」

 肩を掴んで無理矢理自分の方を向かせた。

 俯いたままの麻衣の顔が見たくて体を屈めて覗き込む。

「麻衣?」

 良かった泣いてない、それでも動揺しているのか目を合わせようとしない。

「俺も一緒に帰るよ」

「だめ、仕事があるでしょ?」

 ようやく麻衣が顔を上げて俺の顔を真っ直ぐ見た。

「そんなのいいよ、明日俺が頭下げれば済むんだから」

「でも…」

 暫く押し問答が続いた。

 今、麻衣を一人で帰せたまるか…。

 陸は麻衣を強引に引っ張るように歩き始めた。


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