『-one-』

零れた想い P17


 陸は行きつけのバーで奈津美と一緒に居た。

 電話の相手は奈津美で昨夜客とトラブルがあって落ち込んでいた。

 店の女の子とも揉めているらしくかなり精神的にまいっている奈津美の話を陸は優しく聞いていた。

「人と人の仕事なんだから嫌な奴もいるよ。でも自分を信じなよ、俺は奈津美ちゃんを応援してるから」

 目を真っ赤に腫らして鼻をすする奈津美に声を掛けると小さく頷いた。

「陸くんって本当に優しいね」

「そうか?クールなのがウリなんだけど」

「そう?私はすごく優しくされてる気がするなぁ…」

 奈津美は陸に腕を掛けて肩に頭を乗せた。

 陸は時計をチラッと見たもうすぐ2時になろうとしている。

 オフの夜にに麻衣と一緒に居ないのは久し振り…というか初めてかもしれないと思った。

 たまにはいい薬さ。

 俺が居ない寂しさを味わってもっと俺に執着すればいいんだ。

 いつもだったら何よりも麻衣の側にいる事を選んだのに今夜は麻衣を置いてきてしまった。

 何かが狂い始めている事に陸自身気が付いていなかった。

「じゃあ今度から優しいのがウリにしようかな…」

 上の空になりながらそう奈津美に向って呟いた。

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