『-one-』

零れた想い P15


 久し振りにこの部屋で麻衣と二人きりになった。

 麻衣が仕事から帰って来て二人はリビングのソファに座っている。

 この前店に来てから二人の間はぎくしゃくしていた。

 相変わらず麻衣は陸の食事を用意しているが、陸の方は食べたり食べなかったりで、それでも麻衣は文句も言わずに用意をした。

「この前お客さんと楽しそうにしてたね。」

 先に気まずい沈黙を破ったのは麻衣の方だった。

「そう?いつもと同じだと思うけど」

「親しそうだったけど…知ってる人なの?」

 麻衣は珍しくストレートに質問をぶつけてきた。

 いつもは年上っぽくオブラートに包んでやんわりと聞いてくるのに…。

 それでも陸はそんな麻衣の行動が嬉しかった。

「気になる?」

 期待を込めて尋ねる。

 麻衣の目が少し考えているように動いた。

 もっとヤキモチ妬いてくれたらいいのに、俺だけしか見えなくなればいい…。

「あ、そうじゃないけど…今まで見た事ない人だったから」

「最近、来るようになったから」

 気にならないの?

 ねぇ…麻衣?

「そっか、あんまり飲みすぎたりしないでね」

 麻衣はそれ以上は聞かずに微笑んで返した。

 それだけ?

 陸は激しい憤りを感じた。

 どうしてもっと俺に執着してくれないの?

 俺が他の女の子と仲良くしても平気なの?

 それは俺がホストだから仕方がないって思ってる?

「気をつけるよ」

 自分の気持ちを表に出せないまま上辺だけの会話。

 心の奥に抱えたドロドロとしたものを押し隠したまま。


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