『-one-』

零れた想い P12


 次の日、陸は店のソファで眠っていた。

 久し振りに立ち上がれなくなる程酒を飲み、最後の方は客の相手が出来なくなる程泥酔していた。

 朝になって悠斗が麻衣に連絡しようとするのを止めるとそのままソファに横になった。

 昨夜のアレを見て今は冷静に麻衣と向き合える自信がなかった。

 感情のままに麻衣を責めて傷つく言葉を言ってしまいそうな気がして怖かった。

「麻衣…麻衣…」

 陸は何度も呟くように麻衣の名前を呼んだ。

 その姿を誠と悠斗は心配そうに遠くから眺めている。

「何かあったんすかね」

「まぁ陸があんな飲み方するぐらいだから、そうだろうな」

 だが二人共いつもの喧嘩だろうと…声を掛ける事もなくそっとしておく事にした。

 それから連日のように酒に飲まれそうになりながら仕事に出ていた。

 さすがにその様子に心配になった悠斗が止めようとするが全く聞き入れない。

「陸くん…ちょっと飲みすぎじゃない?」

 仕事帰りに毎日顔を出していた奈津美もさすがに陸の飲み方に心配になって声を掛ける。

「大丈夫だよ。ほら、奈津美も飲めよ」

 陸は奈津美の肩を抱き寄せるとグラスを持たせて微笑むと顔を近付けた。
 奈津美の首元に顔を寄せるとピクンと眉を動かした。

「あ…香水変えた?」

「えっ?うん…どうかな?」

「奈津美には似合わないよ。今度俺が買ってやるからもうしてくるなよ?」

 奈津美の頭を撫でてやると奈津美は嬉しそうに陸に体をもたれさせてきた。

 この香りはいつも俺の隣でしていた。

 部屋で目が覚めると寝室にはいつもその香りが残っている。

 キスをしても抱きしめてもいつも麻衣の体からはその甘い香りがするんだ。

 だから自分の周りで麻衣以外からその香りがするのは…。

 クソッ!

 陸は苛々した気持ちを鎮める為にグラスの中身を一気に流し込んだ。


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