『-one-』
零れた想い P11
「麻衣…どうして…」
陸は隣に奈津美がいる事も忘れて思わず呟いた。
あそこにいるのは間違いなく麻衣で隣にいるのはあの見合い相手だ。
何でだよ。
何で二人でいるんだよ。
あの時は偶然会っただけだって、じゃあ今日も偶然?
「陸くん…?」
「あ…ごめん。ぼーっとしてた」
慌てて奈津美に笑顔を向けると歩き出した。
「店すぐなんだ?俺天ぷら好きだし楽しみだなぁ…予約までさせちゃってごめんな?」
いつもの調子で陸は奈津美に話しかけた。
奈津美は直感であの女性が陸の彼女じゃないかと感じた。
前にチラッと彼女がいるような事を言ったのを聞き逃していなかった。
でも向こうも男と居たんだしと気持ちを切り替えて陸に寄り添うようにして歩き始めた。
「あっ…ここ!」
奈津美が腕を引いて入ろうとしたのはさっきの二人が入って行った店だった。
陸は背中に嫌な汗を掻いているのを感じた。
「申し訳ありません。個室はご用意できなくて…」
どうやら個室をと言ってあったらしく奈津美は不機嫌になっていたが陸がどこでもいいよと言ってその場を収めた。
陸は席に案内された後でも落ち着かなかった。
この店のどこかに麻衣がいるはずなのに姿が見当たらない。
今すぐにでも立ち上がって麻衣を探しに行きたい衝動を必死に抑えていた。
「化粧室行って来るね」
奈津美が立ち上がると陸は店内を見渡した。
個室の一つが料理を運ぶために開かれて障子の向こうが見えた。
心臓がドクンと鳴った。
笑っている女性の姿。
それは見間違えるはずもない麻衣だった。
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