『-one-』

零れた想い P10


 あれから奈津美は陸の店に頻繁に顔を出すようになった。

 今日も奈津美と同伴の予定の陸。

「陸くん!」

 少し離れた所で手を振っている奈津美を見つけると陸は手を軽く挙げて合図をした。

「あっ!それ私があげたネクタイ!」

「ありがとね。奈津美ちゃんはセンスいいよね」

「陸くんは何着ても似合うね!」

「奈津美ちゃんはいつも可愛いね?」

 陸が奈津美の髪に触れながら優しく微笑むと、奈津美は嬉しそうに頬を染めた。

「うわぁ…やっぱりホストだね」

「お世辞じゃないよ?」

「ホストの言う事の中からお世辞取ったら何が残るのー?」

「傷つくなぁ。俺はいつでも本音トークなのに」

 二人は顔を見合わせて笑うと予約した店へと歩き出した。

「今日のお店は天ぷらがおいしいんだってこの前お客さんが教えてくれて…すぐそこなんだよ」

 奈津美は隣に陸が居ない事に気付いて振り返った。

 少し後ろで立ち止まっている。

「陸くん、どうしたの?」

 陸は足を止めてどこかをジッと見ていた。

 不思議に思った奈津美は戻って陸が見つめている先を目で追った。

 少し離れた先を歩いている男女が目に入った。

「陸くん?」

「えっ?あ…何」

 陸は呼ばれて慌てて返事をした。

 でも意識はあの二人から離れていなかった。

「誰?知り合い…?」

 奈津美はもう一度あの二人を見た。

 男の方は見た目からしてホストっぽくて女の方は小柄で可愛らしい感じの女性だ。

 女性をエスコートして店の中へと入る時に俯き加減だけれど女性の横顔がはっきり見えた。

 陸はその瞬間、ギリッと下唇を噛んだ。


[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -