『-one-』

零れた想い P9


「突然転校しちゃって…ちょっと憧れていた私としてはショックだったんだよ」

 中学の時に両親が亡くなって仕方が無く施設のある街に引越したのだ。
 陸は話題を変えようと自分から話し掛けた。

「そうなんだ。でも、すごい偶然だなこんな所で会うなんて、今何やってんの?学生?」

「えっとぉ…社会人?」

「へぇーどんな仕事?」

 コーヒーを飲みながら陸は奈津美に尊敬の眼差しを向けている。

「あ…ごめん。社会人なんて格好つけちゃったけど…本当はキャバ嬢なんだ」

 そう聞かされた陸は奈津美の容姿を見て思わず合点がいった。

 店に来る客と何ら変わらない容姿だったからだ。

「キャバ嬢だって立派な社会人じゃん、って俺も今はホストやってんだ」

「えーホスト!?うわぁーすごいぴったり!中塚くん格好いいから絶対人気出るよね!今度お店に行きたいなぁ」

 二人はお互いの名刺を渡して店へ行く約束をした。

「何でキャバ嬢やってんの?」

 陸は特に深い意味もなく聞いたつもりだったが、奈津美の顔が暗くなるのを見て焦ってしまった。

「あーごめん、別に言いたくなかったら言わなくていいから」

「あっ…別にそうじゃないんだけどね。親が離婚しちゃって…弟には大学行って欲しいし…お金稼ぐには水商売かなって」

 母の収入だけでは生活が苦しくなってそれを支える為に始めたらしい。

「ブランド物買いたいとか考えてる奴より全然いいじゃん、それに俺も似たようなもんだしさ」

「でもこの仕事初めてからお洒落とか気を使うようになったし、仕事も色んな人と話せて最近は楽しいって思えるの!」

 見た目の派手さとは違い意外に中身がしっかりしている事に驚いた。

「俺も色んな人と出会える今の仕事は好きだよ。」

 陸は奈津美と自分が何となく似ているような気がして親近感を持った。

 二人は同級生で同業という事もあってかお互いに仕事の相談をしたりするうちに次第に仲良くなっていった。


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