『-one-』

零れた想い P8


 女はさらに顔をグイッと近付けて来る。

 が…こんなに化粧されてては昔の面影なんて全く残ってない。

 小出奈津美って言われてもなぁ…

 必死に昔の記憶を辿っている。

「ほら、クラス委員の眼鏡かけて三つ編みして…」

 目の前に立つ女が指で円を作ると自分の顔に当てて眼鏡を掛けたようにする。

 だから…そんなまつげバチバチじゃ分からないって。

「少し暗くて…いつも席が一番前で…休み時間はいつも一人で本を読んでた」

 そんな存在感のない奴思い出せるかよ。

 そう思っていたけれど頭の中に地味な女の子の姿が浮かんだ。

「あ…あぁ!あの…小出?」

 あの頃とは180度の変身ぶりにさすがに動揺した。

 けれど名前もあの頃の顔も思い出した陸は警戒を解いた。

「思い出してくれた?こんな所で会うなんて思わなかったー」

「おぉ…何かお前変わった…な?」

「えへ…まぁね。中塚くんは相変わらず…格好いいね」

 奈津美は照れたように笑って陸の姿をまじまじと眺めた。

「ううん、あの頃よりも全然格好良くなったね!」

 はしゃぐ奈津美を店員がギロッと睨んだのが見えて陸は奈津美と店の外へ出て、近くの喫茶店へ入った。


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