『-one-』
ホストと車 P10
ガコンッ−
陸はテーブルの上のパンフレットを丸めるとゴミ箱へ投げ捨てた。
「り、陸っ!」
「麻衣がそんな事言うならもう車はいらない」
麻衣は慌ててゴミ箱からパンフレットを拾った。
陸はもうこの話は終わりだと言いたそうな顔をしてリビングのソファに座った。
「何で怒ってるの?」
麻衣はパンフレットを持ったまま陸を追いかけた。
「怒るよ!怒るに決まってんでしょ!」
陸がなぜ怒っているのか分からない麻衣は不安そうな顔をしたまま立ち尽くした。
「麻衣は俺が車も買えない甲斐性無しだって思ってんの?」
「そんな事思ってない!」
「じゃあなんでそんな事すんの!竜さんに金貸してくれって頼むの!」
陸はこみ上げる感情を抑えきれずに声を荒げた。
「だからそれは…」
麻衣は目を潤ませて弱々しく声を震わせている。
今にも涙を零しそうになっているのを見て陸は慌てて麻衣を自分の隣に座らせた。
「怒鳴ってごめん」
辛そうな顔を見て少し頭が冷えた陸は声をかけながら髪を撫でた。
「麻衣は責任を感じて言ってるんだと思うけど俺にしてみたらプライドが傷つくんだよ?」
「プライド?」
陸の言葉の意味が分からなかった麻衣は首を傾げた。
その表情を見た陸はため息を吐いた。
「俺も男なんだよ? 自分の女に車買ってもらうなんて嬉しいと思う?」
陸は優しく諭すように話しかけた。
「でも…」
「でもじゃない!」
「だって…」
「麻衣?いい加減にしないと怒るよ?」
「もう怒ってるくせに…」
表情は怒っているのに目だけは優しく微笑んでいる陸を見ながら麻衣はワザとぼそぼそと呟いた。
「何?」
「何でもない」
口を尖らせたままの麻衣の顔を両手で挟み込んだ。
「何でもないって顔じゃないじゃん」
「にゃんでみょ…にゃい」
「ぷっ…」
両頬を潰された麻衣の顔を見て陸が吹き出した。
それを見てムッとした麻衣が陸の手を剥がそうとして手を掴んだがビクともしない。
「このままキスしたら俺の機嫌も直るかもよ?」
意地悪心で言った陸の言葉に麻衣は大人しくなる。
「キスされたいの?」
意地悪に聞く陸を麻衣は上目遣いで睨みつけた。
って…それ可愛いんだけど。
陸は頬が緩みそうになるのを堪えて厳しい顔を作った。
「約束して?俺の事好きならあんな事しないって」
これ以上は何を言っても無駄だと分かった麻衣は頷くしかなかった。
正直納得いかない気持ちも残っているけれど自分のした事で陸のプライドを傷つけるような事はしたくなかった。
「もし俺がどうしても金銭面で助けて欲しくなったらその時は麻衣にお願いする。そんな苦労は絶対させないけどね」
水商売の男が何を…世間はそう思うかもしれない。
だけど自分の中にある信念みたいな物は曲げたくなかった。
麻衣がもう一度頷くと陸は嬉しそうに笑ってそのまま唇を重ねた。
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