『-one-』

ホストと車 P9


 次の日陸はいつもより早く目が覚めた。

 目が覚めたというより眠れなかったと言った方が正しい。

「おはよう!今日は早いね?」

 麻衣のいつもと変わらない笑顔。

 その笑顔の奥で何を隠してる? 俺に言えないような事?

 陸は言い知れぬに不安に襲われた。

「麻衣?ちょっとこっち来て」

「少し待ってーもうすぐ朝食の支度出来るから」

「いーから!座って!」

 陸の大きな声に驚いた麻衣は火を止めると陸の座っているダイニングテーブルの反対側に座った。

「どうしたの?」

 陸は腕を組んで目を閉じたまま黙っている。

「昨夜店に竜さんが来たよ」

「えっ」

 麻衣の顔色がサァッと変わった。

 陸はゆっくりと目を開けると麻衣の顔を真剣な顔をして見据えた。

「俺に話す事あるよね?」

「え?な、何が?」

 麻衣は動揺して声が上擦りながら視線を泳がせた。

「お父ちゃんも突然来たりして陸の顔が見たくなったのかなぁ?それならこっちに寄って娘の顔見ていけばいいのにー」

「麻衣」

 陸の声が静かに響く。

「五百万ってどういう事?」

 陸はオブラードにも包まず直球でぶつけると麻衣の顔色がさっきよりも悪くなる。

 竜の話が事実だったと分かると陸の顔色がいっそう険しくなった。

「そ、それは…」

 麻衣はまるで悪い事をして見つかった子供のように大人しくなってしまった。

「ちょっと待ってて」

 麻衣は立ち上がると寝室へ向った。

 陸は黙って待っているとすぐに戻って来て手に持っていた物をテーブルの上に置いた。

「これ…」

 テーブルに置かれたのは客から渡された車のパンフレットだった。

「陸には好きな車乗って欲しいの」

「麻衣?」

「ホストなんだし外車ぐらい乗ってた方が格好いいと思うよ」

 予想外の方向へと話が進もうとしている。

 ちょっと待って?

 どうしてこういう展開になるわけ?

 陸は思ってもない展開に頭が混乱していた。

 だいたいこのパンフレットはしまっておいたはずなのにどうして麻衣が持ってる?

「それと…」

 麻衣は通帳をテーブルの上に置くと陸の方へと押した。

 陸は目を見開いて言葉を失った。

「少ししかないけど…これ…」

 何だよ…それ。

 テーブルの上に置かれた通帳に視線を落としたまま動けなかった。

「な、何これ…」

 ようやく声が出た。

「車買う時に使って?」

「は?何で!何で!何で!」

「だって…ぶつけたのは私だから…」

 昨夜の竜の話の内容にようやく納得がいった。

 貢がせてるってこういう事か。


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