『-one-』
ホストと車 P8
「さてと…」
竜はゆっくりと陸の方へと向き直った。
煙草を取り出すのを見て火を点けようとしたが竜はそれを制して自分で火を点けた。
「どうだ?元気でやってるか?」
「はい」
「あいつとも仲良くやってるか?」
「はい」
気まずい。
明らかに気まずい空気が流れてる。
「俺もそう思ってたんだけどな…」
竜はまだ吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。
え?それはどういう意味?
思いがけない竜の言葉に陸は激しく動揺した。
「周りくどい事は嫌いだから単刀直入に聞くが…金に困ってんのか?」
「…はい?」
冗談ですか?と聞きたいのをグッと堪えた。
竜の顔はどう見ても真剣そのもので茶化してる様子は微塵も感じられない。
「今日あいつから電話があって金を貸して欲しいと言ってきた」
「麻衣…が?」
金?
金って何だよ。
俺は何も聞いてないって。
「その顔だとお前は何も知らないって感じだな」
「…すみません」
陸は落ち込んだ。
一緒に暮らしているのに自分にどうして相談してくれなかったんだろう。
どうしてそんな水臭い事するんだよ。
確かに俺は年下で頼りないかもしれないけど、こんな仕事してるんだしある程度の金額なら俺が何とか出来るのに。
「あの…金額とか、理由とか何か言ってましたか?」
本当なら直接麻衣に聞きたいけれど俺に言わないって事は俺に言いにくい理由なのかもしれない。
もしかしたら俺が傷つくような事とか…。
って俺に言ってくれてない時点でかなり傷ついてんだけど。
「あー口止めされてっからなぁー」
竜の言葉にガクッと項垂れた。
「そこを何とか教えてくれませんか?」
こんな所で落ち込んではいられないと陸は竜に食い下がる。
「んーその前に一つ確認してぇんだけど…お前さ好きな女にも貢がせてるわけ?」
「そんな事あるわけないじゃないですかっ!」
思わず大声を出した陸を竜は厳しい視線を向けて咎めた。
「お前がそんな奴だとは俺も思ってねぇんだけどなぁ…」
竜は何かを考えているような顔をしている。
「も、もしかして…麻衣が誰かに貢いでるって事ですか?」
そんな事口にするのも嫌だ。
俺以外に誰がいるって言うんだよ。
「さぁな」
「さぁなって…竜さん!」
「知らねぇもんは知らねぇんだからしょうがねぇって」
竜に言い切られて苦虫を噛んだような顔をした。
「まっ、金額だけ教えてやるよ」
陸は大きく深呼吸した。
竜も神妙な顔つきで陸を見てから口を開いた。
「五百万」
「五百万!?何の為に!!」
予想していなかった金額にうろたえた。
「使い道は…まぁ後は二人で話して解決するんだな。どうしても必要なら俺はいつでも貸すけど。可愛い娘の頼みは断れないからな」
「いえ…後は俺に任せてもらえますか?」
竜は小さく頷くと席を立った。
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