『-one-』

ホストと車 P7


 この人は本当に表と裏がありすぎだな。

 悠斗は近くで陸の事を見ていて心底そう思っていた。

「でも陸さんなら車の一台や二台ないとダメですよ!」

 まだ言うかぁっ!

 陸と悠斗は同時に心の中で叫んだ。

「陸ならやっぱりベンツよりもBMWかなぁ?」

「やっぱりポルシェじゃないのぉ?」

 治まるかと思っていた車のネタに再び火が点いてしまって陸と悠斗は頭が痛くなった。

「車なんて高い買い物だしすぐには買わないっすよね?陸さん」

「そうだなー。それにタクシーのが運転しなくていいし便利だからな」

 悠斗のフォローに感謝しつつ陸も返事を返す。

「陸さんなら買わなくてもポンっとプレゼントされたりするじゃないですか」

 和哉ー!
 
 今日終わったら絶対ミーティング。

 陸は無神経な和哉を睨みつけた。

「じゃあお前が俺にプレゼントしてくれよ」

「あっ、それいいっすねぇ!和哉日頃の感謝の気持ちを込めて陸さんにプレゼントしろよー」

「えぇーっ。俺じゃあ頭金も出ないー」

 和哉は大袈裟なジェスチャーでその場が和んだ。

「陸さん、新規のお客様です」

 ボーイが陸の所へ来て耳打ちをした。

「俺、指名?」

「えぇ…それが…男性の方なのですが」

 少し驚いた陸が店の入り口の方をチラッと見た。

「今、誠さんと話してる人?」

 ボーイは陸の言葉に小さく頷いた。

 小さく深呼吸をしてスーツの襟を整えてネクタイを直した。

 どうして?

 真っ先にそれが頭に浮かんだ。

「いらっしゃいませ。陸です」

 テーブルの前で頭を下げて挨拶をした。

 平常心でいたつもりでも心なしか声色が固くなっているのが分かった。

「おぅ。元気か?」

 誠の隣に座っていた男は陸が来ると顔を上げてニヤリと笑った。

 ただ座っているだけなのに…。

 何ていう存在感なんだろう。

「えぇ…ご無沙汰してます。…竜さん」

 陸がもう一度頭を下げる。

「まさかお前と竜さんが知り合いだなんて驚いたよ」

 竜の隣に座った陸は言葉に詰まった。

 麻衣のお父さんだなんて言っていいのかどうか、それに誠さんと知り合いだなんて思いもしなかった。

「俺も驚いたよ。誠の店でこいつが働いてたなんて、なぁ?」

 竜は隣に座った陸の髪をくしゃっと撫でた。

「お二人はお知り合いだったんですか?」

「俺がまだ駆け出しのホストだった頃に世話になった人だよ」

「あの頃は生意気なクソガキだったのにいっちょまえに店なんか構えやがって」

「竜さんには敵いませんよ。俺の憧れは竜さんですから」

 陸は二人の会話に上手く入り込めずにいた。

 陸の頭の中はどうして竜が店に来た事かただそれだけ。

 まさか昔を懐かしむ為に来ただけなわけはない、もしそうだとしても俺をわざわざ指名するはずがない。

 それなら何故?

「…おい…おいっ!」

「あっ…すみません」

 ぼーっとしていたのか二人は怪訝な顔をして見ている。

 しまったちゃんと仕事に集中しないと。

「誠…外してくれるか?No.1の陸くんとゆっくり話がしたいんでね」

「いいですよ」

 陸は誠の後ろ姿を見送りながら居住まいを正した。

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