『-one-』

ホストと車 P6


 陸は何となく百合の言いたい事が分かって来た。

 百合はきっと麻衣の存在も二人の関係も全て承知している。
 
 それでもその事にはっきりと触れようとはせずに遠まわしにだが陸に注意を促そうとしている。

「えぇ…分かります」

「だから…あまりに頑なな態度は色々と面倒よ?それとも…」

 百合は言葉を切って意味深な視線を送った。

「私が見返りを要求するんじゃないかと思って?」

「まさか…百合さんはそんな事をするような人じゃない事は分かっています」

 ホストになってからずっと自分を面倒見てきてくれた人だ。

 純粋に俺をNo.1にしようとしていてくれた人。

 誠さんがホストをしていた頃からの親しい間柄。

「そうねぇ…でも今回は見返りを求めようかしら…」

「えっ?」

 陸はドキッとしながら百合の顔を見た。

 優しく微笑むその笑顔の向こうが知りたい、一体何を考えているのか全く陸には掴めなかった。

「これでも一応女だし…たまにはヤキモチも妬くのよ」

「何言ってるんですか、百合さんは俺にとっては一番大事な…」

「お客さま、でしょ?」

 遮るように出た百合の言葉に陸は一瞬言葉に詰まったがすぐに笑顔を作って切り返す。

「そうやって俺を困らせようとする百合さんは可愛くて…別な意味で困りますね」

「ふふふっ…言うようになったわね」

 二人が視線を合わせてニヤリと笑った。

「車の件で一つ条件があるのよ。」

「何ですか?」

「一番初めに私を乗せてドライブに連れて行く事。それぐらいの見返りはいいわよね?」

 それぐらいなら別にどうって事ないけれどやはり簡単に即答する事は出来そうにない。

 結局はもう少し時間を貰う事にした。

 PM10:00

 土曜の夜にしては客の入りも少なくてチラホラ空いているテーブルがある。

 一つのテーブルには常連のOLの女性二人を囲んで接客している陸、悠斗、和哉の姿があった。

 話題はすっかり知れ渡ってしまった陸の車の話。

「もーぅ!車持ってるなんて言ってなかったじゃーん」

「言うほどの車じゃなかったんだよ」

 程よく酔いが回っている客の相手をしながら正直うんざりしている。

「えぇっ、陸と二人ならどんな車でも平気だもん」

「いつも二人で乗ってるだろ?…タクシーに」

 もぅ!と頬を膨らませて口を尖らせている。

 車を買ったなんてバレたらしつこく乗せろって言われそうだと感じた。

「買う車は決めたんですか?」

 新人の和哉がそんな陸の心配にも気付かずに軽い感じで質問を投げてきた。

 一方悠斗は和哉のその発言にしまったと思ったけれど言ってしまってからではどうやっても訂正出来ない。

「車なんてすぐに決まらないですよねぇ。それにほら…陸さんってタクシーが自分の車みたいなもんだし!」

 悠斗ナイスフォロー!

 後輩の悠斗の言葉に陸は思わず小さくガッツポーズ。

「でもぉ…陸の助手席にも座ってみたいなぁ」

 左隣に座っている客が甘えた仕草で陸に腕を絡めた。

「タクシーの方が二人の距離が近いし俺はそっちの方がいいけど?」

 陸はすかさずそう切り返す。

「でも二人っきりじゃないー」

「二人きりになって何がしたいの?」

 低く囁くような声を耳元で受けて顔を近付けられた客は思わずぽーっと陸に見惚れてた。


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