『-one-』

ホストと車 P2


 −次の日の朝−

 土曜日の朝だというのに麻衣はいつもと同じ時間に起きて朝食の支度をしている。

 風呂場からはシャワーの音がもう10分くらい止まらずに聞こえてくる。

「陸ー?寝ちゃだめだよー?」

 心配になった麻衣がドア越しに声を掛けた。

「んー…」

 眠そうな声が返って来たのを確認してまた台所へと戻る。

 今日は今月から始めた日の出営業とやらで朝から仕事へ行く支度をしている。

 昨夜はアフターにも付き合ってきて帰って来たのは4時近かったのにアラームの時間通りベッドから出た。

 ブツブツ言いながらもちゃんと起きるから偉いよね。

「麻衣ーおはよー」

 バスローブを羽織った陸が麻衣を後ろから抱きしめた。

「目、覚めた?」

「麻衣のキスで目が覚めるはずー」

 どこのおとぎ話よ…と思いながらも麻衣は首を回すようにして陸の唇にキスをした。

「もうちょっと…」

 唇を離した麻衣を掴まえると陸は足りないと言わんばかりに深く唇を重ねた。

「んっ…」

 それはもう朝なのに朝じゃないような甘い甘いキス。

「もう十分覚めてるでしょ?」

 エスカレートしそうな雰囲気に麻衣は唇を離した。

「麻衣ってばつれないなぁ」

「はいはい、ご飯は?食べられる?」

「味噌汁だけちょーだい」

 ラブラブの雰囲気にならない麻衣に陸は面白くないって顔をしてぶっきらぼうに答えた。

 ダイニングテーブルに座って新聞に目を通している陸の前に味噌汁と野菜ジュースを用意した。

「あ、陸」

 麻衣は自分の朝食をテーブルに並べてから陸の名前を呼んだ。

「なに?」

 まだ少し不機嫌そうな顔の陸が顔を上げた。

 チュッ−

「仕事頑張ってね?」

 不意にされたキスに陸は一瞬で顔が緩んだ。

 ちぇっ…それ反則だろ。

 ニコッと笑って向かい側に座る麻衣を少し憎らしく思いながらすっかり機嫌を直した。

「あ、そうだ!これ見てくれた?」

 テーブルの端に積まれたパンフレットを指差した。

「見たけどよく分かんない」

「麻衣の好きな車選べばいいんだよ?」

「でも運転するのは陸だから…陸が選んだ方がいいんじゃないかな?」

 陸は味噌汁を飲み干してテーブルの上に置くとパンフレットを手に取った。

「この中の車なら俺はどれでもいいよ。」

「陸はどんな車が好き?」

「俺は…車高の高い車が好きかな。見晴らしいいからね」

 あーだから乗ってた車も大きな車だったんだと麻衣は納得した。

「じゃあ次も車高の高い車がいいね」

 それじゃあと陸はパンフレットの山から車高の高い車をピックアップしている。

「これから乗る人数増えるしワンボックスの方がいいかもなぁ」

 パンフレットを手にしながら陸が言うと麻衣が不思議そうな顔をした。

「えっ?増えるって?」

「そりゃあ…だって…」

 モジモジと煮え切らない態度の陸。

 意味の分からなかった麻衣もあっと分かったような顔をした。

「誠さんとか悠斗くんとかみんなで出かけたりするんだね!」

 うんいーよねぇ、楽しいよねぇと麻衣は頷いている。

「違う」

 頷いている麻衣を陸は一喝した。

「え?違うの?」


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