『-one-』

親心 P11


 頭に白い包帯を巻いて青白い顔をした麻衣が立っている。

 陸の顔は少し涙ぐんでいた。

「麻衣っ、麻衣、麻衣…」

 麻衣の前に立つと頬を挟むようにして顔を見た。

「麻衣…麻衣…」

 頬、鼻、口、目、痛々しく巻かれた包帯…麻衣の無事を確認するように何度も何度も手で触った。

「馬鹿っ!どうして車に乗ったんだよっ!」

 人前という事も忘れて陸は麻衣を力いっぱい抱きしめた。

 麻衣は抱きしめたその腕が震えている事に気が付いて「ごめんね」と呟いた。

「頼むよ…」

 陸は強く抱きしめたまま離そうとしなかった。

「交通事故で大切な人を失うなんてもう二度と耐えられない…」

「ごめんね、ごめんね…」

「麻衣が居なくなったら俺は…」

 二人の熱烈なラブシーンを見せ付けられていた全員の中から誠がようやく腰を上げた。

「こほん…お取り込み中のところ申し訳ないんだけど…」

 誠は遠慮がちに声を掛けたが陸は麻衣から離れようとしなかった。

「陸?誠さんが…」

 麻衣は陸の腕を叩いたけれど陸は腕をほどく事なくそのままの体勢で口を開いた。

「誠さん…ありがとうございます。本当に最後までありがとうございました」

 それだけ言うと出口へと向おうと麻衣の肩に手を廻して支えた。

 麻衣は誠を気にするように何度も何度も振り返る。

「結果聞かないのか?」

「どんな結果でも俺はもう続けて行くつもりはありません」

 足も止めずに返事をする陸の後ろ姿を見て誠は弱ったなぁと呟いた。

 どうしてこうなった?

 俺の思惑ではここで感動的なエンディングになるはずだった。

 誠は予想していた結果にならない焦りが出始めた。

「誠さん!どうするんですかっ!」

 響は誠に詰め寄った。

「誠さんっ!」

 悠斗も陸の後ろ姿を目で追いながら誠に詰め寄る。

「どうするってよぉ…こんな展開予想出来ねぇし…」

「ったく…とりあえず俺は陸さん引き止めて来ますから!」

 悠斗は直ぐに陸を追いかけた。

「誠さん、こんなのありえないですよ。絶対大丈夫っつーから俺はあんな役引き受けたんですよ?」

 響が泣き出しそうな顔をしながら誠に食って掛かった。

 そこにいた全員が突き刺すような視線を誠に送って誠は居たたまれない気分になった。

「悠斗、分かったから!手離せって…」

 悠斗は陸を引きずるようにして連れ戻して来た。

 隣には麻衣が心配そうな顔で陸に寄り添うように立っている。

「麻衣…少し待ってて?」

 陸は麻衣を近くにソファに座らせると悠斗に向き合った。

「で…?話って何だよ」

 陸が戻ってくると一番初めに響が駆け寄って土下座した。

「すみませんでしたっ!」

「お、おぃ…響…」

 すみませんでした!

 すみませんでした!

 次々と陸の所へ駆け寄っては土下座をしていつの間にかそこのいたホスト全員が陸の前にひれ伏している光景が現れた。

「お、おいっ!お前ら何やってんだよ!」

 突然の出来事にオロオロしながら陸は響の腕を掴み立たせようとする。

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