『-one-』
親心 P10
何分経った?
もう30分以上経ってるような気がするのに周りを見てもそんな感じがしない。
ここで時計なんか見たら場が白ける。
響との差はどのくらいあるんだろう。
もしかしたら俺の方が勝ってて今抜け出してもこのまま逃げ切れるかもしれない。
いや…そんな簡単じゃない事は分かってる。
ごめんね麻衣。
どっちも大事なんて言いながら結局両方取るなんて出来ないのかもしれない。
それなら俺は…。
陸は何も言わずにただ立ち上がった。
無意識のうちに体が動いていた。
「陸?どうしたの?」
不思議そうな顔をしてみんなが俺を見上げている。
麻衣やっぱり俺…ホスト辞めなきゃだよ。
「すい…」
「失礼します」
陸が口を開きかけた所に誠がタイミングよく入って来た。
「残念ながらお時間の方が…」
誠の言葉に客が時計を見てがっかりした顔をしたが陸はホッと安堵のため息を吐いた。
慌しく最後の客を見送った後の店内はいつものような雑然とした感じはなくて全員がジッとその時を待っていた。
会計がいつもよりも緊張した面持ちで最終的な金額を計算している。
陸は何となく帰るタイミングを逃してしまった。
ずっと座り込んで自分の足元を眺めていたが意を決したように立ち上がり誠の元へ向った。
誠はフロアの中で会計からの連絡を待っていた。
近くには響も居て目を閉じて静かにその時を待っている。
陸は誠の前に立つとそのまま土下座をした。
「誠さん…すみません」
店内にいた全員が陸の行動にざわついた。
「辞めさせて下さい。」
「陸、お前…」
誠は陸の突然の行動に驚きながらも心のどこかで「あぁ…やっぱり」と思う自分がいた。
「今さら何言ってるんですか!逃げるんですか?」
目を閉じていた響が陸に詰め寄ると今度は陸を立たせるような格好で襟元を掴んだ。
「こんなに世話になっといて本当にすみません。俺はこの仕事が好きだけどここまで頑張れたのは麻衣がいたからで…」
自分に食ってかかる響を無視しながら陸は言葉を続けた。
「俺は麻衣を選びます」
「陸さん!」
意味の分からない響は陸の体を大きく揺さぶった。
陸は響の手を掴んで下ろさせると「悪いな…」と小さな声で言って立ち上がった。
立ち上がるともう一度誠に頭を下げた。
「まぁ…待てよ」
誠の言葉に陸はゆっくりと顔を上げた。
「情けない顔してんなよ」
誠は茶化すとゆっくりと右の方を指差した。
陸が視線を向けた先には美咲に支えられるように麻衣が立っていた。
「麻衣っ!!」
ガタンッ!ガタガタッ−
陸は麻衣の姿を見つけるとテーブルやソファに体をぶつけてよろめきながら麻衣の元へと駆けつけた。
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