『-one-』
親心 P8
月末最終日。
いよいよ陸と響の決着がつく日。
今のところ僅差で陸が上回ってはいたが一発逆転出来る金額で油断出来ない状況だ。
前日の閉店後陸は悠斗にだけ胸の内を打ち明けていた。
「俺さ…ONEだけは売上を競ってボトル開けさせるような店にしたくないって思ってたんだよ。誠さんもきっと…それなのに俺がこんな事してるって情けねぇな
」
悠斗は陸の辛い胸の内を聞いて初めて陸の気持ちを知った。
陸はNo.1なんて地位を気にした事は今まで一度だってない。
今回の事だって陸さんの本意じゃないのに…。
ちょうど同伴で店に入って来た陸を見つけたがそんな思いは微塵も感じさせない。
常に自信に溢れて輝いてそれ以上に隣に座る女性を輝かせる事が出来るような人。
「陸さん…頑張って下さい」
悠斗は小さな声で呟いた。
「おい…悠斗」
誠から呼ばれて行くと携帯を差し出された。
「あれ?これ陸さんの携帯じゃないっすか」
「あいつ忘れて来たらしいんだ、今麻衣さん持って来てくれたからヘルプ入った時に渡してやって」
「こんな時間にワザワザ持ってきたんですか?」
「珍しく車運転して来たしよっぽど心配なんだろ」
「麻衣さんって運転出来たんすね」
そんなやりとりをして陸がいるテーブルへ向った。
悠斗がさりげなく携帯を陸に渡すと陸は驚いた顔をしてすぐに嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとな」
その言葉は悠斗に向けられたものだったけれど心の中では麻衣への感謝の気持ちでいっぱいだった。
麻衣も誠さんも俺の事を心配してくれている。
悠斗も…ずっと俺を信じてついてきてくれてる。
だから気持ちを裏切らない為にもあの言葉を響に撤回させる為にも今月だけは何としてでもNo.1になる。
今日の閉店は0時。
残り一時間を切った。
全員が勝負の行方を固唾を飲んで見守る中、誠の携帯が鳴った。
「どうした?」
仕事中には電話して来ない美咲からの着信で何事かと電話に出た。
「…えっ」
誠は美咲の話を聞きながら青ざめた。
「あぁ、分かった…すぐに行かせるから」
「陸呼んで来て」
スタッフに声を掛けると少しして陸が誠のところへやって来た。
「何ですか?話なら閉店後がいいんですけど」
「今日はもう上がれ」
「は?何言ってんすか」
「いいから…上がって病院へ行け」
「病院…?」
誠の顔がいつになく真剣な表情をして陸を真っ直ぐ見た。
「麻衣ちゃんが事故に遭った」
「えっ…?」
「車でガードレールに突っ込んだらしい」
「なっ…何言って!麻衣が車の運転するわけないですよ!」
陸は誠の言葉を遮るように否定した。
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