『-one-』

親心 P7


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「何があったんですか?」

「陸が何か言ってましたか?」

「ホストを辞めようかなって…」

「そう…ですか」

 誠は小さくため息を吐いた。

 昼間の陸の様子が心配な麻衣は誠に連絡を取り開店前のONEを訪れたのは10分前。

「簡単に言えば陸の売上が落ちているんですよ」

「え?」

「このままではNo.1じゃなくなるということです」

 麻衣には信じられない事実だった。

「近くて見ていて気付きませんか?前に比べて遅刻や早退、欠勤が増えてるのが売上が落ちている原因でもありますね」

 麻衣は誠の言いたい事を汲み取った。

「私と付き合い始めてから…」

「残念ながら否定できませんね」

 私が陸の足を引っ張っている?

「本命の彼女に夢中になりすぎて仕事の支障が出るのはホストとしては…それに後輩のホスト達にも示しがつかないですし」

「そう…ですか」

「ONEのオーナーとして言わせてもらえば出来れば麻衣さんには陸と別れて欲しいと思ってます」

 麻衣は膝の上で手を強く握り締めた。

 少しでも陸の仕事の迷惑にならないようにとお店に顔を出すこともなるべく遠慮するようにしていたのに。

「でも…」

 誠は少し声を和らげて微笑んだ。

「俺としてはあいつには仕事もプライベートも諦めて欲しくないんだよね。ホストも麻衣ちゃんもね」

「誠…さん」

「大事な弟みたいなもんだし…俺がこっちの世界に引っ張りこんだ張本人だしね」

「私も陸にはホストをこんな形で辞めて欲しくないです。私と別れる事で解決するなら…でもそれは…」

 誠は何も言わずに頷いた。

「俺は陸を信じてます。きっと俺達の気持ちに応えてくれるよ。こんな事で潰れるような情けない男でもないからね」

「陸の事…宜しくお願いします」

 麻衣は精一杯の気持ちを込めて頭を下げた。

 二人の話を陸は物陰で聞いていた。

 店を辞める話をしようと来ていた陸は先に来ていた麻衣を見て咄嗟に隠れて最後まで話を聞いてしまった。

 目に涙を浮かべた陸は音を立てずに店を出た。


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