『-one-』
親心 P6
それからの陸は人が変わったように接客をした。
だが響の人気が上り調子のせいもあって売上はかなりの接戦になっている。
麻衣の休日の昼間14時過ぎてようやく起きてきた陸を心配そうな顔で麻衣が話し掛けた。
「陸?大丈夫?」
「大丈夫だよ。ちょっとここんとこ飲みすぎでさ」
心配かけまいと笑顔を見せた。
「無理…しないでね?」
陸の頬を心配そうに撫でる麻衣を抱きしめて肩に顔を乗せた。
「心配掛けてごめん。俺頑張るからさ…」
「陸?」
いつもと違う様子に麻衣は戸惑いながら自分の体を抱きしめている陸の髪を撫でた。
「俺さ…高校卒業して誠さんに拾われたじゃんね」
「うん」
「でさ…ホストになって初めてNo.1になった時言われたの。お前拾ったのは間違ってなかったな、これからは二人で店でかくしてこうなって」
陸は誠の事を本当の兄のように慕っていた。
誠もまた陸の事を弟のように可愛がっている。
麻衣が側で見ていてもそれは十分に伝わっていた。
「だから…今までは誠さんの為に頑張ってたみたいなところあって…でももうホスト辞めようかな」
「えっ?」
陸の思いがけない言葉に麻衣は耳を疑った。
「ホスト辞めてさ普通に仕事してさ麻衣と結婚して子供作って…」
陸がさっきより強く自分を抱きしめている事に気付いた麻衣は不思議に思いながら陸の話を黙って耳を傾けた。
「そしたら毎日一緒に飯食って寝て…休みの日はドライブに行ったりして」
「何かあった?」
「んーホストなんて一生出来る仕事じゃないしさ。ここらで見切りつけてもいいかなって」
「陸がそうしたいなら私は何も言わないけど…」
「誠さんは?それでいいって?」
麻衣の言葉に陸は何も答えられなかった。
「そんな風に辞めちゃったら誠さん悲しむんじゃないかな?」
「清々するんじゃない?俺みたいなホストいない方が店の為にもさ…」
「陸らしくない言い方ね」
麻衣は陸の体から離れると隣に座って陸の手を握った。
「何があったの?」
「………」
陸は答えられなかった。
いや…答えたくなかったのだ。
そんな陸の気持ちを察したのか麻衣はそれ以上理由を尋ねる事はなかったけれど一言だけ陸に言葉を掛けた。
「私も誠さんも悠斗くんもお店のみんなも…陸のホスト姿好きだよ。そんなみんなの気持ちを裏切るような事はしちゃだめだと思うよ」
やっぱり麻衣は大人だな…
弱音を吐いて慰められる俺はまだまだガキって事か。
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