『-one-』

親心 P5


 それから数日後のONEで事件が起きた。

 ついに陸と響の順位が入れ替わった。

「おい…このままいったら新しいNo.1の誕生だな」

「響、すげぇな!」

 響を囲むように出来た輪を陸は複雑な思いで眺めていた。

「陸さん…」

 陸の横には悠斗が心配そうな顔で陸の事を見ながら立っている。

「ばぁか、そんな顔すんなよ」

 悠斗の視線に気付いた陸は笑って頭に手を置いた。

「俺…陸さんみたいになりたいって思ってます。ホストとしても男としても憧れてます」

「おいおい…そんな熱烈な告白すんなよ」

 悠斗の真剣な眼差しに陸は恥ずかしそうに笑った。

「他の奴だって陸さんみたいになりたいって…和哉は陸さんに憧れてONEに入ったぐらいだし」

「俺はそんなにすごくないよ。お前ら買い被りすぎだ」

「陸さん…」

 陸と悠斗の側に響が近付いた。

「陸さん…俺…」

「響やったな」

 陸は笑いながら響の胸を拳で叩いた。

「俺は今の陸さんを抜いてもNo.1になったとは思わないですよ」

 二人のやりとりを他のホスト達が心配そうな顔で見守っている。

「響、俺は…」

「陸さんっ!俺達は陸さんと誠さんに憧れてます。だけど今の陸さんには…正直幻滅です。」

「はは…幻滅か」

 はっきり言ってくれるよな。

 こんなに注目されて居心地が悪いと思ったのはいつ振りだろうな。

 突き刺さるような視線が痛い。

「本気になって下さいよ」

「本気って…」

「本気になってもらわないとNo.1になっても胸を張ってONEの看板張れないじゃないですか」

 下の奴らに示しがつかないってこういう事か。

「悠斗も響も…お前らさぁ…何でそこまで俺に言うわけ?そんなに俺すごくねぇだろ」

 本当に俺なんてすごくないんだよ。

「俺もお前達も何も違わねぇだろ。同じホストだろ」

「違うんですよ!陸さんみたいに立ってるだけで存在感があるような人と俺達が同じなわけないじゃないですか!」

 響が珍しく声を荒げた。

「何そんなに熱くなってんだよ」

「悔しいんですよ。今の陸さんは腑抜けて見ててイライラするんですよ」

「響…お前ちょっと言いすぎ」

 さすがに見ていた悠斗が止めに入ったが響は悠斗を制した。
 
「俺のどこが腑抜けてるって?」

 響の言葉に頭に来た陸は響きを睨みつけた。

「女のケツばっか追いかけて情けないって言ってるんですよ」

「響…どういう意味だ」

「言葉の通りっすよ。そんなに女のケツ追いかけたいならホスト辞めてヒモにでもなったらどうっすか」

 響の言葉に陸は拳を握り締めた。

 ヒートアップする二人のやり取りを後輩達がハラハラと心配そうな顔で見守っている。

「俺がどうしようが関係ねぇだろうが」

「関係あるんですよ。女にうつつを抜かしてるホストなんてこの店にはいらないんですよ」

「響…お前…」

 言葉が出なかった。

 まさかこんな風に思われていたなんて…。

「そんなに麻衣さんがいいんですか?」

「まぁ…確かに可愛いけどあれくらいなら他にもいるでしょ。それとも離れられないくらいいい体なんすか?」

「響ぃっ!!」

 ドンッ−

 陸は響の胸倉に掴み掛かると思いっきり壁に押し付けた。

 響は掴まれても怯む事なく真っ直ぐ陸の目を見据えた。

「ホストの顔殴るなんてバカな事しないで下さいよ」

「さっきの言葉取り消せ…」

 怒りで声が震えている。

「図星だったんですか?そんなにいい体なら俺も一度お願いしたいっすよ」

「響!お前言いすぎだって」

 さすがに響の暴言に耐えかねた悠斗が二人の間に割って入る。

「悠斗、どいてろ!」

 陸は悠斗を低い声で一喝すると響の方に向き直る。

「取り消せよ」

 陸は響を強く締め上げながら更に押し付けた。

「こ、今月も…陸さんがNo.1になったら土下座して取り消しますよ」

 響が苦しそうに声を振り絞ると陸はようやく手を離した。

「ごほっ、ごほっ…」

 響は胸元を押さえて咳き込んだ。

「その言葉忘れるなよ」

 陸はそれだけ言うとその場から立ち去った。

 残された者の間に気まずい沈黙が流れる。

 そんなホスト達の様子を誠は何も言わずただ見守っていた。


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