『-one-』
親心 P4
少しの沈黙の後陸が口を開いた。
「ホスト同士で争わせたりするのは誠さんのやり方に反するんじゃないんですか?」
「あぁ…その通りだな」
「じゃあ順位がどうのって言われる意味が分かりません」
もっともな事を言われて誠は改めて陸と二人で店を支えてきた事を思い知らされた。
「今のお前はホストか?」
「え?」
誠の言われた意味が分からなくて聞き返す。
「遅刻、早退、欠勤…多すぎるとは思わないか?」
「あ…」
言い返す事も出来ない陸は俯いた。
「うちの看板ホストならそれなりの自覚を持て」
確かに麻衣といるのが楽しくて仕事が疎かになっている。
「このままじゃ下の奴らに示しがつかねぇんだよ」
珍しく誠が語気を強めて陸は事態の深刻さを感じた。
「No.1落としたら今までのようにはいかないって事ぐらい分かってるよな?」
「えぇ…」
「お前の事はずっと面倒見てきたし麻衣ちゃんとの事だって上手くいって欲しいよ。だけどお前のやってる事はホストとしてはどうなの?」
弟のように可愛がってくれている誠の言葉は何よりも胸に突き刺さる。
「今月No.1落としたら麻衣ちゃんの出入り禁止、最悪…別れてもらうぞ」
「誠さんっ!!」
ガタンッと音がするほど勢いよく陸が立ち上がると誠は目で座れと合図する。
「女と付き合うなとは言わないが仕事とプライベートはきっちり分けろそれが出来ないならホスト辞めろ」
何だよそれ…何でそんな話になるんだよ。
いきなり突きつけられた誠の言葉に陸は激しく動揺した。
陸は部屋に帰って来てからも眠れずにいた。
麻衣と暮らすようになってから仕事よりも麻衣と一緒にいるのを選んでいたのは間違いない。
だけど後輩に売上が抜かれそうだからって麻衣との事をどうこう言われるのは気に入らない。
今月も俺がNo.1になれば誠さんも文句はないだろうけど響の売上の勢いは…。
「り…く…?」
隣で眠る麻衣がゴソゴソと動いて目を開けた。
「眠れないの?」
心配そうな顔をしながらこっちを見ているのに気がつくと陸は麻衣の体を自分の腕の中に抱き寄せた。
「そんな事ないよ。おやすみ…チュッ」
額にキスをすると安心したように微笑んで目を閉じた。
俺にとって何より大切なのは麻衣だけど、誠さんへの恩は一日も忘れた事はない。
だから俺がホストとして誠さんの店で頑張る事で恩返しをしているつもりだったのに麻衣との事を言われると…。
くそっ…。
俺どうしたらいいんだよ。
腕の中で静かに寝息を立て始めた麻衣を見つめた。
麻衣の事大好きだよ。
俺さ…もっと上手く立ち回れるって思ってたんだよ。
麻衣の事もホストの仕事もさ…付き合い始めてからだってそこまで売上落としてなかったから大丈夫なんて高を括っていたんだよな。
どっちも大事なんて欲張りかな。
でも今の俺にとってはどっちも失いたくない。
「麻衣、大好きだよ」
眠る麻衣にもう一度キスをして目を閉じた。
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