『-one-』
親心 P3
「いらっしゃいませ、百合様」
「こんばんは、今日はお着物とは…素敵ですね」
大切な顧客の一人でもある百合が来店すると陸はすぐに出迎えた。
「ありがと、あなたのスーツも素敵じゃない」
「百合さんのお見立てがいいからですよ?」
陸は百合の手を取って席へと案内しようとすると、百合は陸の手を遮った。
「今日は人気の響くんと飲んでみたいんだけどいるかしら?」
「え…」
思いがけない言葉を聞いて陸は戸惑った。
「響…ですか?」
「そう誠さんに聞いたわ、黒髪のはにかみ屋さんなんでしょ?」
参ったな…今月で何人目だよ。
「百合さんもハニカミボーイがお好みでしたか?」
「あらヤキモチ妬いたの?私は陸みたいなクールで色気のある方が好きよ。」
「じゃあ、今夜はつまみ食い?」
百合は陸の顔を見てクスッと笑った。
「本当にヤキモチ?そんな余裕のない陸の顔が見られるならつまみ食いも悪くないかしらね」
「俺を困らせて楽しんでる?」
「ふふふ…どうかしら」
百合が意地悪く笑うと陸はお手上げと言いたげに首を振った。
「意地悪なお姫様の為に今夜は一人で枕を濡らします」
姫に仕える騎士のように手の甲にキスをすると奥へと戻って行った。
その様子をオーナーの誠はジッと見ていた。
「あれ?百合さん来たんじゃないんすか?」
奥の部屋へと戻った陸はソファに座ってネクタイを緩めた。
「あー響と飲みたいんだって」
「え…」
後輩達が言葉に詰まるのを感じて気まずそうな顔を浮かべた。
「今日はもう帰るかなぁ、どうせ平日なんて客少ないし」
「で、でも…」
コンコン−
「陸、少しいいか」
ノックと同時に開いているドアの隙間から誠が顔を覗かせた。
「何すか?」
陸が誠の方を見ると俺の部屋にと指差した。
部屋へ入ると向かい合うようにソファに座った。
「今日のミーティングどうして欠席した」
「すみません。飯食ってて…」
どうしようもない言い訳に誠はため息を吐きながら煙草に火を点けて陸の顔をジッと見た。
「今月これで何人目だ?」
「何がですか?」
「百合さんも響ご指名だったんだろ?」
「あぁー」
何人目って俺より詳しいくせに意地悪い聞き方するよなぁ。
「このままじゃ順位ひっくり返るぞ」
「いや別に俺はNo.1とかにこだわってないんで…」
「そんな事知ってる」
いつもと違う誠の態度に気付いた陸はソファに浅く座り直して少し姿勢を正した。
「何が言いたいんすか」
「分からないか?」
警戒するような視線を受け止めると誠はそのまま陸に返す。
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