『-one-』

ホストクラブ P4


 陸は目の前で起きた光景に体全体の血が沸騰しそうな怒りを感じたがグッと拳を握り締めて耐えた。

「あ、あの…陸くんえっとこれは…私が誘ったからで、麻衣は悪くないからね、ね?」

 美咲が何とかその場を納めようとしたが全く取り合ってもらえるような雰囲気ではない。

「美咲さん、今日はもう連れて帰るんで」

 感情を押し殺したような固い声。

 持っていた麻衣の携帯を胸ポケットにしまった。

 その間視線はずっと俯いたままの麻衣に落としたままだ。

「あ…う、うん。陸くんごめんね、麻衣の事あんまり怒らないでね?」

「今度店に来た時に、楽しみにしてますよ?」

 陸は麻衣から美咲へと視線を移して笑顔を浮かべた。

 全く目が笑っていなくて美咲は更に恐怖心が増す。

「じゃあ、また店で」

 陸は軽く美咲に頭を下げると歩き始めた。

 麻衣は陸の姿をチラッと目で追ってから美咲の袖口を摘まむようにして引っ張りながら涙目で美咲を見た。

「ごめんね。私のせいで変な事に巻きこんじゃって…」

「気にしないで、誘ったのは私なんだし…それより私は麻衣の方が心配なんだけど…」

「何してんの?早く行くよ」

 二人の会話を遮るように低い声が割り込んで来る。

 麻衣はゆっくりと体の向きを変えて少し先で立ち止まっている後ろ姿を追い掛けた。

 陸の後を俯きながら歩く麻衣を見送りながら美咲はようやく安堵のため息を吐いた。

「おいおい、災難だったなぁ」

 からかうような憎たらしい声がして美咲は声のする方を睨みつけた。

「あんたが言ったの?」

「俺はただ美咲が他の店にも行ってるみたいだってな話をしただけだ」

 誠が煙草を咥えながら歩いて近付いてくるのを美咲は腕を組みながら睨みつけている。

「それだけでバレるわけないじゃない!」

「あいつの麻衣ちゃんレーダーは動物以上だからな」

 うんうんと感心している誠を見て美咲は麻衣が気の毒だと心の底から同情した。

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