『-one-』
ホストクラブ P3
ブブブブ…
麻衣の手の中で携帯がブルブルと震えて着信を知らせている。
発信者はもちろん陸からだった。
「み、美咲…どうしよう掛かってきちゃった」
「と、とりあえず出ないとまずいって」
そ、そんな無責任なぁ…。
ボタンを押そうか迷っていると先に電話が切れてしまった。
「き、切れちゃった…」
「すぐ出ないからでしょ!すぐに掛け直しなよ」
「う、うん」
慌ててリダイヤルを押して携帯を耳に当てる。
呼び出し音が聞こえてくると手の中からスッと携帯が抜き取られて顔を上げた。
「ひぃっ!」
麻衣は変な声を出しながら後ろに飛び退いた。
「掛け直す必要はないね?」
冷たい声で取り上げた携帯をパチンと閉じる。
麻衣の携帯を片手に持って立っているのは青筋を立てている陸だった。
「あ、あ…」
麻衣が声も出せずにいるとさっき二人が出て来たドアが開いて人が出て来ると辺りを見渡している。
麻衣達の姿を見つけるとパァッと笑顔になって近付いてくる。
「良かった間に合って」
店から出て来たのは夕夜だった。
相変わらずの人懐っこい笑顔を麻衣に向けている。
「また来てくれるかな?もっと麻衣ちゃんと話がしたいなって思って…店の外でも構わないから、これ俺の携帯…」
夕夜は麻衣の手を取って小さな紙を握らせた。
それを見ていた陸がピクッと反応する。
当の夕夜は麻衣の事しか見えていないのか隣に立っている陸の存在に気が付いていない。
「あ…えっと…私は…」
手を握られたままの麻衣はチラッと陸の顔を見た。
不機嫌をそのまま顔に出したらこうなるの…そんな顔をして麻衣を見下ろしている。
「麻衣ちゃん?」
不審に思った夕夜は声を掛けてようやく麻衣の横に立っている陸の存在に気付いた。
「大丈夫?」
夕夜は麻衣の手を引き寄せると陸を睨みつけた。
陸も同じように夕夜を睨み返している。
「たちの悪いホストとかに絡まれたりしてない?麻衣ちゃん可愛いからさ」
明らかに陸に対して言っている。
よりによって今日の陸はいかにもたちの悪そうなホストに見える格好をしていた。
「え、あ…全然大丈夫だから」
麻衣は突き刺さる矢のような陸の視線を受け止めながらこの場を何とかしようと必死だった。
助けを求めるように美咲に視線を送っても陸の怒りようにどうしていいのか分からない様子で立ち尽くしている。
「タ、タクシー捕まえてすぐ帰るから」
「危ないからタクシーに乗るまで一緒に居てあげるよ」
危ないからと言った時にチラッと陸の顔を見ると陸は嫌悪感を露わにした。
「麻衣…行くよ」
それまでずっと黙っていた陸が口を開いた。
陸の態度に夕夜は堪らず足を一歩踏み出した。
「おい、夕夜ー!」
タイミング良く店の中から声を掛けられるとチッと舌打ちをした。
「あ、あのっ…本当に大丈夫だから」
麻衣が作った笑顔を向けるとまだ心配そうに手を握っている。
「じゃあ無事に帰れるようにおまじない」
夕夜は素早く麻衣の唇にキスをすると不敵な笑みを浮かべ陸に視線を送って店の中へと戻って行った。
「あ…」
あちゃーと美咲は顔に手をやって俯いた。
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