『-one-』
冬篭もり P4
陸は出掛ける支度を済ませると麻衣が用意した朝食を食べ始めた。
「道が混んでるかもしれないから早目に出た方がいいな」
温かいご飯と味噌汁で体の中がじわっと温かくなるのが分かる。
麻衣と一緒に住むようになってからきっちり三食食べる癖が身に付いている事に自分でも驚いた。
普段降らないだけにたったあれだけの積雪でも交通網が麻痺してしまっている事にテレビの中のコメンテーターが色々と意見している。
「もっと暖かい格好の方がいいかな?」
麻衣は自分の格好を見てブツブツと言っている。
陸はまるで雪山へ行くみたいだと微笑みながら見ている。
その視線に気付いた麻衣が不思議な顔をして首を傾げて陸を見る。
陸はすぐにでも抱きしめたい衝動に駆られて立ち上がろうとした。
「あ…」
麻衣と陸は同時に音が鳴っている事に気付いた。
麻衣が動くよりも早く陸が近くにあった麻衣の携帯を取って手渡した。
もちろん画面に出ている発信者の名前をチャックする事も忘れなかった。
「あ、おはようございます」
電話の相手は男だったがさすがの陸もその相手には文句は言わなかったけれど、耳だけは麻衣の言葉をしっかり聞こうとしている。
「えぇ…本当にびっくりしました。えぇ…」
相手の声は聞こえないけれど、こんな朝早く電話を掛けて来ているという事と麻衣の受け答えから雪の事かな?と陸は思っている。
「えっ?でも社長…いいんですか?でも…」
麻衣は電話の相手に驚いたように返事をして何度か押し問答のようなやりとりをした。
そして諦めたのか麻衣は分かりましたと言って電話を切った。
「何だって?」
陸は食事を終えてお茶に手を伸ばしている所だった。
麻衣は陸の質問に複雑な表情をして答えた。
「今日、休みにするって…」
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