『-one-』

ホストの素顔 P2


「何これ?」

 運転中の陸はハンドルを握ったままチラッとだけ見て視線を戻した。

「少ないんですけど…謝礼って事で…」

「…金って事?」

「えぇ…少ないんですけど」

「ふぅーん」

 そう言ったきり黙りこんでしまった。

 何も話さずに運転を続けている。

 陸の方を向いて封筒を差し出している麻衣は気まずい沈黙にどうしていいか分からなかった。

(これ受け取ってくれないの?)

 まだ白い封筒を持ったままだった。

「あ、あの…」

「じゃあその金で飯奢ってよ」

 沈黙に耐え切れずに話しかけようとして陸に遮られた。

 少しホッとする。

「…えっとぉ、それはちょっと…あの…」

「俺と飯食うの嫌…?」

 信号待ちの陸が泣きそうな顔を向けている。

 麻衣は思わずグッと言葉に詰まる。

「い、嫌では…」

「じゃあ一緒に食べよう!」

 嬉しそうな笑顔に戻るのを見て麻衣はため息を点き封筒をバッグにしまう。

(私が悪いんだから仕方が無いのよ。携帯落としたのも遅刻したのも、泣きそうな顔だからって強く出れないもの)

 自分の押され弱さは十分分かっていた。

「で…どこへ向かっているんですか?」

「んー連れて行きたい店があってさ。嫌いな食べ物ある?」

「ないです」

 そしてまた沈黙。

 チラッと表情を窺うともう難しそうな顔をしている。

「ねぇ…麻衣?」

 陸は前を向いたまま名前を呼んだ。

 その声は急に甘く切ない響きで麻衣はドキッとして返事が出来ない。

「もっと普通に話してよ。俺敬語とか使われんの嫌だ。それと…陸って呼び捨てにして」

「ん…分かった」

(また雰囲気に呑まれてしまったのかも…)

 さっきまでの強気な表情から一転憂いのある寂しげな表情。

 そんな顔でお願いされたら断れない。

 ほっとけない…そんな気持ちで麻衣は素直に頷いた。

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