『-one-』
子供なココロ大人なカラダ P5
誠の返事にキョトンとした麻衣の反応を見た誠もまた不思議そうな顔をする。
「毎日帰りも遅いみたいだし、指名が増えて忙しいなら私の事は気にしなくていいですよ」
麻衣の言葉にさらに不思議そうな顔をして首を傾げる誠は二人を席まで案内するとすぐに奥へと戻って行った。
「何かさっきの誠さん変じゃなかった?」
「そぉ?」
美咲に聞いても何にも気にしてないって感じで返された。
平日の店内は少し閑散としていてこのテーブルの近くにも他のお客さんの姿はない。
誠が席を外して少し経つと誠は悠斗を連れて二人の席へと戻って来た。
「美咲さんこんばんは、今日も素敵ですね」
悠斗は美咲の方へ笑顔を向けて挨拶を交わしながら麻衣の横に座り誠は美咲の横へと座る。
「麻衣さんもこんばんは、お店で会うのは久しぶりですね」
悠斗くんは日に何度もメールのやりとりをするメル友でその回数の多さに陸もヤキモチを妬いたりする事もあるぐらい。
「そうだねー。あ、この前言ってたお取り寄せのプリン頼んだから届いたら食べにおいでね!」
「マジっすか?すっげぇ楽しみー!」
悠斗達と他愛のない会話をしながら麻衣は店内を見渡すが陸の姿が見当たらなかった。
今日は同伴かな?
陸はお店の後輩の話をする事があってもお客さんとの予定を話す事は滅多にないからどんな予定なのかは全く私には分からない。
「陸は…同伴?」
さっきは誠にあんな風に言った麻衣もやはり気になってしまいこそっと声で悠斗に聞く。
「え…えぇ…そう言えば遅いですね」
この時の悠斗くんの歯切れの悪さに何だか嫌な胸騒ぎがした。
「明日仕事だし…私そろそろ」
もうすぐ一時間近く経とうとしているのに陸は二人のテーブルに顔を見せないどころか店内に姿を現さない。
陸の事が気に掛かりながらも平日という事で頭の中は仕事が優先しようとする。
だが心の中ではいつもと違う誠や悠斗の態度に麻衣の胸騒ぎが治まる事はない。
タイミングよくボーイが来て誠に耳打ちをすると誠はすぐに立ち上がり席を外した。
「美咲…そろそろ帰らない?」
「でもまだ陸くん来てないじゃない」
美咲の言葉に胸の奥がチクンとする。
「きっと同伴で遅くなるんだよ。私仕事あるし…そろそろ帰るよ」
美咲の承諾をもらって立ち上がろうとすると店の入り口の方から言い合いをするような声が聞こえて来た。
「悠斗くん…何かあったのかな?」
聞かれた悠斗も分からないと首を横に振り様子を見に行こうと立ち上がった。
だがすぐ静かになり誠が戻って来て少し後ろを歩いてくる陸の姿が見えた。
「麻衣、良かったね!」
「う、うん…」
美咲が嬉しそうな顔をするのを麻衣は微妙な気持ちになりながら笑顔を返した。
陸が来てからもいつものようにくだらない話をしながら楽しい時間は過ぎているはずなのに心に何か引っ掛かる物を感じる。
隣には陸が座っているのに何だか陸が遠く感じる。
「ねぇ…陸。明日仕事だし…そろそろ」
「あ…うん」
麻衣が話しかけても今日は何だか陸の反応が悪い…。
というかよりどこかボーッとしていて手応えがない。
美咲と誠も店の外に出ると四人でタクシーを拾う為に少し離れた通りまで歩き始めた。
「麻衣…俺も一緒に乗っていい?」
陸がぼそぼそと言った言葉に驚いて思わず立ち止まった。
「どうしたの?」
「ダメ?」
まるで捨てられてた子犬みたいな目というか何かを訴えかけようとしているような目をして麻衣を見ている。
「な、何言ってるの。ダメなわけないでしょ?」
麻衣の言葉に陸は明らかにホッとした表情を浮かべて体の力を抜いたのが見て取れる。
「陸、あ…」
話しかけようとすると陸は大通りへと少し足を早めて二台のタクシーを止めている。
「じゃあ、美咲また連絡するね」
「うん、今度はお二人の愛の巣へお邪魔させてねー」
美咲に手を振り麻衣はタクシーに乗り込むと続けて乗ろうとする陸の所にと誠が近寄ってきた。
「陸、おまえ明日休みな」
「あ…でも俺、今日…」
「分かったな?オーナー命令だ」
何か言いたげな顔をしている陸の襟元掴み顔を近付けると陸にしか聞こえないように囁いた。
「仲直りするまで出勤停止にすんぞ」
陸は何も返さずにただ頷いてタクシーに乗り込むと行き先を告げた。
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