『-one-』

子供なココロ大人なカラダ P4


 そろそろ待ち合わせの時間から15分くらい経つんだけど何年経ってもそういう所だけは治らないなぁ。

 あれで社長なんだから信じられない。

「おっ待たせー!」

 あ…噂をすればだね…。

 店の入り口の方から大きな声がして店の雰囲気とは不釣合いな程ブンブン手を振りながら美咲が入って来た。

「ほっんと待たせすぎなんだけど」

 今日は髪をアップにしてキチンとまとめて珍しくパンツスーツを着こなしている姿はやり手の女社長風。

「出掛ける時にちょっとトラブっちゃってね」

「相変わらず忙しそうだね」

 席に座るとすぐにメニューに手を伸ばしてあれこれとオーダーをしている。

 いつも忙しくて二人でこうやってご飯を食べる事も久しぶりだった。

 陸と暮らすようになってから時間がある時は陸と食べるようにしてたし…。

「さてとぉ…ラブラブ同棲生活はどぉ?」

 ワインや料理が運ばれて来るなり待ってましたと言わんばかりに美咲が切り出してくる。

「どぉ…って別に普通だけど?」

 実際にこうやって正面切って聞かれたりする恥ずかしかったりする。

「陸くんの事だから四六時中付いて離れないんでしょ」

「ははは…まぁね」

 離れないってというりまるで寄生してるんじゃないかと思うくらい。

「そう言えばこの前ONEに行って来たけど、何だか陸くん張り切ってるっていうか、毎日遅くまでお店にいるみたいだね」

「あぁ…うん、何だか忙しいみたいで帰って来るのも遅いから顔合わせてないんだよね」

 もう一週間くらい顔合わせてないような気がした。

 でもちゃんと帰って来てるし用意した食事もきれいに食べてあるから大丈夫だと思うけど…。

 お約束のこの展開になるよね。

「忙しいなら私は顔出さない方がいいって」

 入り口の扉に手を掛けている美咲の腕を引っ張って何とか引き止めようとする。

「何言ってるの。大好きな麻衣の顔見たら嬉しくって尻尾振って飛びつくに決まってるじゃない」

 尻尾振って飛びつくって犬じゃないんだから…。

 ホストクラブの前でいい年した女が二人押し問答しているのは変な光景だった。

 通り過ぎる人たちが怪訝な顔をしている。

「全く!小娘じゃあるまいし…ほらさっさと入る!」

 美咲に強引に腕を引かれた麻衣は開いたドアの中へと突き飛ばされるように押し込まれた。

「いらっしゃいませ」

「こんばんは、美咲さん、麻衣さん」

 若いホストの子が出迎えるいつものお店の感じ。

「誠いる?」

 美咲が声を掛けるとすぐに奥から誠が姿を現した。

「お二人でお見えになるのは久しぶりですね」

「美咲は私と違って色々忙しいみたいだから」

 美咲と誠さんを交互に見る…。

 一体この二人って付き合ってるのかな?

 プライベートでよく会ってるのは知ってるけど美咲ってば自分の事になると全然話さないんだよね。

「それじゃあ、お席に案内しますね」

「あ、今日は陸くんいる?」

「美咲いいってば」

 余計なお世話と言わんばかりに麻衣は小さな声で美咲をたしなめる。

「え…?えぇ…」

 誠は怪訝な顔をして曖昧な返事を返した。

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