『-one-』

子供なココロ大人なカラダ P3


「おはようございます!陸…さん?」

「おはようござ…います」

「おぅ…」

 何だよ!言いたい事があるならはっきり言えっての。

「あれー?陸さん今日は早いじゃないっすかー」

 能天気な声が奥の方から近付いてくる。

「おぅ…悠斗。少し寝るから時間になったら起こして」

 近いづいてきた悠斗は陸の顔を見るとみるみる顔色を変えていく。

「ど、ど、どうしたんすか!」

 悠斗が大きな声で叫びながら指を指している陸の左頬はまだ赤くそして少し腫れている。

「そ、そんな顔で店に出るつもりすか?」

「何だよ。何か問題でもあるかよ」

 そして今日の俺はすこぶる機嫌が悪い…。

 結局あの後一睡も出来ないし部屋に居ても気が滅入るからこんな時間から店に来ている。

「い、いや…だって。ってゆーか誰にやられたんすか?客の男にでも殴られたとか?」

「うるせーよ!男だったら倍返しにしてやる」

「って事は女っすか?」

 こんな二人のやりとりに興味津々とばかりに周りに人が集まってくる。

「陸さんって客とも女とも揉め事起こさない人なのに珍しいっすねぇ!何やっちゃったんですー?」

「あ!もしかしてやばい奴の女がうちに通ってるとか?」

「違うって!他の女と鉢合わせになってケンカの仲裁だろ?」

 う、うるせぇ…。

 好き勝手に言いたい事いいやがって。

「そんな事あるわけないだろ?陸さんにはあんなに可愛い彼女の麻衣さんがいるんだから…」

 やいのやいのと騒ぐ後輩達を制するように悠斗が言うと全員の視線が陸の方を向いた。

「も、もしかして麻衣さん…が?」

 痛いほど突き刺さる視線。

 それは同情というよりも非難めいた物だと言う事に気付いた陸はさらに機嫌が悪くなる。

「麻衣さんに何したんすか!」

 こういう事だけには勘のいい悠斗にグイッと詰め寄られた。

 今回ばかりは陸も何も答えられずに顔を逸らした。


 店の賑やかな声がドアの向こうから聞こえくる。

 一番奥にあるオーナーの誠の部屋。

 営業時間中だがネクタイを緩め足を投げ出してソファに座っている陸は誠と二人で酒を飲んでいた。

「それにしてもひどくやられたもんだな」
 向かい側に座った誠は陸の顔を見てはニヤニヤ笑っている。

「あー見えて意外と力あるんですよ」

 結局さっきの騒動から誠が助け出してくれた。

 だが誠にもホストのくせに顔を殴られるなときつく叱られ店を休むように命令された。

「で、何が原因なんだ?あの麻衣さんが殴りたくなる程怒るって事は相当やばい事したんだろ」

「ほっといて下さい…」

 朝から寝込みを襲って殴られたなんて誰が言えるかっての。

 しかも怒り方が尋常じゃないし…。

“陸なんか大嫌い”

“触らないで”

 今朝の麻衣の言葉を思い出すとずっと我慢していた涙腺が緩んでギュッと目を閉じるとガラスに残っている酒を流し込んだ。

「おいおい、今日は早く帰って麻衣さんの機嫌でも取って来いよ」

「何て顔して会っていいか分からないんすよ…」

 ソファに寝転がって目を閉じても止められそうにない涙を見られないように腕を目の上にギュッと押し当てた。

「自分が悪いと思ってんなら謝るしかねぇだろ?」

 それだけ言うと誠はフロアへと出て行った。

 謝って許してくれるならどんだけでも謝るって…はぁ…。


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