『-one-』

優しい手 P2


 また眠りについた麻衣を病院が始まる頃陸は起こすと着替えから出かける支度までを半ば強引に手を出して病院に連れて行った。

 診断はただの風邪。

 薬をもらって帰って来るとまた強引にパジャマに着替えを済まされて再びベッドへと押し込まれた。

 そして今に至る。

 帰宅してから一歩も寝室から出る事を許されずベッドから起き上がろうとするだけで陸は泣きそうな顔をして怒ってくる。

「俺が隣にいるのに、どうして起さなかったの?」

 私も気付かなかったんだけど…。

 なんて言おうもんならどんな返事が返って来るのか怖かった。

「買い物行って来るからちゃんと寝ててね」

 陸は麻衣の額にキスをして布団を首元まで引き上げると何度も心配そうな顔で振り返りながら寝室を出て行った。


「麻衣、どぉ?」

「ん…ぁ…今何時?」

「12時回ったとこ」

 そんなに時間経ってないんだ…。

 麻衣はあちこちの関節が痛む体を起そうとした。

 何度も止めるのも聞かずに起き上がろうとする麻衣に根負けした陸は手を貸すと枕やクッションを積み上げて体を起こさせた。

「お粥作ったけど食べられそう?」

「んー…あんまり食欲ないんだけど…」

 陸がお粥作ってくれたんだ…って陸ってそういう事出来たんだ。

 せっかく作ってくれたんだし…。

「やっぱり少し食べる」

 陸は嬉しそうな顔をして寝室を出て行くとすぐにお盆に湯気の立っている小さな鍋を乗せて戻って来た。

「はい、あーん」

 熱々の玉子粥をスプーンで掬うとフゥフゥと冷ましてから麻衣の口元に近付けている。

「一人で食べられるから…」

 麻衣はスプーンに手を伸ばして自分で食べようとした。

 だが陸は麻衣の手を押さえて“メッ”と怒った顔をする。

「いいから!ほら、あーん」

 諦めて口を開けると陸は嬉しそうな顔をしてお粥を食べさせてくれる。

「あ…おいしい…」

 初めて食べる陸の手料理に驚いた。

 悔しいけれど自分で作るお粥よりもずっと美味しい。

「ほんと?」

 満面の笑みを浮かべてまた同じように口元に運んでくれた。

「陸って料理上手だったんだね」

「上手なんかじゃないよ。」

 そんな風に言いながら顔は照れくさそうにしている。

「俺が小さい時にさぁ…風邪引くといつも母さんが作ってくれてたんだ」

 こんな風に陸が自分の両親の事を話す事はあんまりない。

 だからと言うわけではないけれど麻衣の方から色々と聞く事もなかった。

「あんまり料理上手な人じゃなかったんだけどコレだけは美味しかったんだよな」

 少し遠い目をしている陸は今昔の事を思い出しているのだと思う。

 中学の時に事故で両親を亡くすまでの大切な思い出。


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