『-one-』

優しい手 P1


 まるで軟禁状態。

 寝室に閉じ込められてベッドから一歩も出られずに30分に一回見回りがやって来る。

「麻衣、何か欲しい物とかある?」

「大丈夫だよ。そんなに見に来なくてもいいよ」

 同じ部屋にいると言い張るのをやっとの思いでなだめるのが精一杯。

 今から数時間前のこと。

 携帯にセットされたアラームを止めようと手を伸ばした時に体の異変に気が付いた。

 いつもと違う倦怠感と自分でも感じる程の体の熱さ。

 携帯のアラームを止めても起き上がる事が出来なかった。

 やばいなぁ…風邪かも。

 昨日から何だか頭が痛かったんだけど、ここんとこ忙しかったから疲れてただけと思ったのに。

「麻衣…?」

 隣で眠っていた陸が眠たそうな目を薄っすらと開けて麻衣の方を見ている。

「起こしちゃった?ごめんね」

「平気。もう時間だね」

 携帯で時間を確認した陸は微笑んで体を起こした。

 手を伸ばして麻衣の頬に手を触れるといつものよう朝のキスをする。

「おは…、麻衣?どうしたの、すごい熱いよ?」

 さすがに毎日キスしているだけの事はある唇に触れただけですぐに気付かれてしまった。

「何か熱っぽいみたいだけど、大丈夫」

 平気なフリをして笑顔で起き上がろうとした麻衣を陸はベッドに押し付けた。

 すぐに寝室を飛び出して行き数秒後には体温計を持って戻って来た。

「熱測って!おでこだってこんなに熱いのに」

 陸の勢いに圧倒されて私は渋々体温計を受取って脇に挟む。

 陸は心配そうな顔をして見ている。

「たいした事ないって、陸は大袈裟なんだからー」

 軽口を叩いてみたものの陸はジッと体温計の終了の音を待っている。

 ピピッピピッ

 音がすると麻衣が手を伸ばすより早く陸が抜き取ってしまった。

 体温計を持ったまま寝室を飛び出して行く陸の後ろ姿を呆気に取られながらのろのろと体を起した。

 一体今度はどうしたの?

「陸ー?」

 部屋を飛び出した陸を追って寝室を出た。

 陸を探しているとキッチンから飛び出して来て陸に見つけられるなり抱き上げベッドへと連れ戻された。

「何やってるの!寝てないとダメだろっ」

 怒った顔をした次の瞬間には私の額には冷たいシートが貼られている。

「今日は仕事は休む事分かった?後で病院連れて行くからそれまでは寝てる事」

「ちょ、ちょっと、陸ー!」

「ちょっとじゃないの、熱が38度以上もあるのに大丈夫なわけないだろ?」

 陸はまるで印籠のように体温計を突き出した。

 体温計のデジタル部分には38.3と表示されている。

 あらら…さすがに熱っぽいじゃ済まされないかなぁ。

 陸の言うとおり今日は休んだ方が良さそうだった。


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