『-one-』
田口家へようこそ! P9
「次の店で最後だから」
タクシーの中で言われて何となく察しがついた。
車が止まったのはホストクラブ。
思った通りだったか…。
「仕事っていうのは…」
俺の想像はきっと間違ってないけど確かめたい。
「あぁオーナーだよ。この3つが俺の店」
やっぱりそうか。
これで全部納得がいったよ。
どうりで俺がホストでもまったく動じないわけだ。
「最初はここだけだったんだけど引退したら暇でさ」
へぇ…初めはホストクラブだけだったんだ。
「引退って?ホストだったんですか?」
軽く聞き流す所だった…。
「もう昔の話だよ!今は店出たって誰も喜ばないからなぁ」
豪快に笑いながら店に入って行った。
お義父さんが元ホスト。
お兄さんはゲイ。
娘の彼氏は現役ホスト。
一体どんな家族だよ。
「オーナー面接ですか?」
入るとすぐに若いホストが出て来た。
「ある意味面接みたいなもんだな」
そう言ってニヤリと笑って俺の顔を見た。
俺は本来の目的をすっかり忘れていた事に今さら気付いた。
たぶんVIP席だと思う個室に通された。
とりあえずいつもの癖で水割りを作ってお義父さんに出した。
一口飲むと「さすがだな」と言って笑った。
これじゃあ本当にホストの面接みたいだ…。
緊張を静めるために少し息を吐くとニヤニヤ笑って俺を見ている。
「いいよ?言いたいんだろ」
ったくバレバレだよな…すげぇやりにくい。
少し姿勢を正して真っ直ぐお義父さんの目を見た。
「麻衣さんと結婚します。」
お義父さんは持っていたグラスを置いて俺を見た。
「結婚しますって…普通結婚させて下さいとかだろ?」
「え…?」
あれ…俺間違えた!?
「麻衣のどこが気に入った?」
「全部です」
豪快に笑われてしまった。
どこにも笑えるポイントはないと思うんですけど…。
何をどうしていいか分からなくなって頭が真っ白になった。
そんな俺を見てお義父さんは笑いを堪えながら言った。
「俺もさ、美紀の両親に30年前に同じ事言ったよ」
え?
「俺の場合はすぐ許して貰えなかったけどな」
懐かしそうに遠い目をした。
「麻衣の事、泣かせるなよ」
初めて麻衣の父親という横顔を見たような気がした。
「はい、約束します」
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